インテリジェンス提供機関としてのインターポール
開催にあたって、カスペルスキーの代表取締役社長の川合林太郎氏は「最近ではサイバー攻撃について、サイバースパイ、サイバーテロなどという言葉が使われている。国と国のせめぎあい、国を超えた戦いの様相を呈している。人ごとではないという意識を持つことが大切だ」と挨拶した。
続くパネルディスカッション「サイバー犯罪撲滅に向けたインターポールとカスペルスキーの連携」では、カスペルスキー氏とインターポールのサイバー犯罪対策組織INTERPOLE Global Complex for Innovation(IGCI)で総局長を務める中谷昇氏が参加。両社が提携にいたった背景や活動の内容を解説した。
カスペルスキーとインターポールとの提携は、今年3月に発表されたものだ。国という枠組みを超えて行われるサイバー犯罪に対抗するためには国際間の協力が欠かせない。カスペルスキー氏は、かねてより「サイバー世界のインターポールが必要」との持論があった。一方、インターポールも、高度化する犯罪捜査のためにセキュリティの専門知識を持つ機関と協力する必要性を感じていた。「数年前にカスペルスキー氏とモスクワで会ったときに、その話をした。すると『それはいい。一緒にやろう』とその場で話がついた」(中谷氏)のだという。
インターポールと言うと「ルパン三世の銭形警部」のような強制捜査権を持った国際警察といったイメージがある。だが、中谷氏によると、実際にはそういった捜査を実際に行うことはなく、「各国の警察などに捜査のための情報を提供する機関であり、警察向けの情報サービスプロバイダーのような存在だ。拳銃を持ってカーチェイスすることはないが、BlackBerryを持って情報交換をする」という。
「法執行機関なので、犯罪捜査のためには予算請求が必要だ。テクノロジーを利用するには効果検証の結果を待つ必要もある。一方、サイバー犯罪者にはそんなビューロクラシー(官僚主義)は存在しない。我々がテクノロジーを検証し、予算を請求している間に、新しいテクノロジーを次々と試していく。失敗しても成功するまで試すことができる。我々は犯罪者のテクノロジーの後手にまわり、常に追いかける立場におかれてしまう」(中谷氏)
サイバー犯罪には国境もない。捜査のためには証拠が必要だが、証拠を揃えるという観点から国境を超えるのは非常に大変になるという。たとえば、ログをどう保全するかというデータのフォレンジックの問題や、インターネットプロバイダーやセキュリティプロバイダーとの迅速な情報共有といった点で課題がある。また、国によって法律は異なり、たとえばDDoS攻撃が犯罪行為と見なされないケースもある。
こういったさまざまな課題に取り組むために生まれたのが中谷氏が総局長を務める"サイバー版インターポール"のIGCIとなる。IGCIは「警察機関をサポートするための情報データバンク」のようなもので、各国の警察機関をVPNで結び、捜査情報のデータベースを提供する役割を担うという。