UMLの伝道師からアジャイルへ
ディーン・レフィングウェル(Dean Leffingwell)氏は、「ソフトウェア要求」に関する第一人者。現在はIBMのRational事業部となったRational Softwareの副社長として、UMLやRUP(ラショナル統一プロセス)などの普及もおこなってきた、この道30年のベテランである。
日本では『ソフトウェア要求管理』(ピアソン)や『アジャイル開発の本質とスケールアップ』(翔泳社)などの訳書があるが、このたび新刊として『アジャイルソフトウェア要求』(翔泳社)が発行された。
「2001年にRationalを辞め、いくつかのスタートアップ企業に経営として関わった。その中のひとつがRally Software。アジャイルやリーンによるソフトウェア開発方法論のコンサルタントとして多くの企業に関わってくる中で、たとえ小さな企業であっても、自分が培ってきた方法論によって、開発の規模を格段にスケールアップさせることができ、品質を向上させることができることを確信した。」(レフィングウェル氏)
以後、レフィングウェル氏は、BMCソフトウェア、ノキア、CAなどで大規模開発のコーチングを行う中、2年かけてアジャイルのスケールアップ化に注力した。その成果が『アジャイル開発の本質とスケールアップ』である。
こうした活動の中での知識やドキュメントを体系化し、ソフトウェアプロダクトのマネジメントの役割の連携や相互依存の関係について記述し、アジャイル開発の中でプロダクトのマネジメントを完了していくことや、コンテンツの決定をおこなう役割について提案していく中で、「アジャイル要求の全体像」(Big Picture)がまとまった。この全体像にもとづくフレームワークが Scaled Agile Framework」(SAFe)である。これによりアジャイルによる開発プロジェクトを経営者に理解させることが可能になったという。
「SAFeのルーツは、アジャイル開発、リーン、プロダクト開発フローなどの開発のプラクティス。これらをエンタープライズの大規模開発に適用できるようにまとめていく中で、全体像が見えてきた。2012年のカンファレンス”Agile2012”で議論し、賛同者を得てSAIという会社と一緒にフレームワークとして公開した。」(レフィングウェル氏)
全体像ができたことで、経営者とソフトウェア開発プロジェクトに関するコミュニケーションも可能になった。既知の領域では適用できていたアジャイルの手法も、未知の大規模プロジェクトに適用するには、非常に難しい判断が伴う。投資効果、生産性、リソース、要求についての様々な経営的な判断が求められる。アジャイル方法論の導入の最大のネックはここにあると、レフィングウェル氏は言う。
「通常、スクラムであれば、スクラムを導入した後の企業の姿というのがわからない。その点が導入の障害になる。全体像があれば、導入した後の企業の姿がこうなり、このような価値が生まれるということを経営者や役員が理解できる。」(レフィングウェル氏)
こうして完成したSAFeをSAI社が商用化し、コースウェアや教材を開発しライセンシングをおこなっている。現在、日本ではオージス総研がパートナーとしてトレーニングなどを提供している。