IBMが目指すのはオンプレミス、オフプレミスが1つとなるDynamic Cloudだ
今回のイベントでもっとも数多く登場したのは、昨年買収したSoftLayerだろう。IBMは以前からSmarterCloudという名称でさまざまなクラウド関連ビジネスを展開してきた。それが、このSoftLayerの買収で一気に加速。というよりも、SoftLayerを核にクラウドのソリューションを再構築したと言っても良い。
いまやすっかりIBMに取り込まれた感のあるSoftLayerだが、組織的には買収前のまま独立して動いているそうだ。SoftLayerのCEO ランス・クロスビー氏によると、IBMは買収後も24から36ヶ月はSoftLayerの既存ビジネスを見守る方針なんだとか。SoftLayerがどんなビジネスをしているかを見極めた上で、今後の体制をじっくりと整えるとのこと。
とはいえそういった動きとは別に、IBM自体はSoftLayerを活用するクラウドシナリオをすでに書き上げている。それを発表したのが、今回のイベント。そのシナリオのキーワードは、「Dynamic Cloud」。これは、いわゆるハイブリッド・クラウドのことだ。とはいえ、たんにオンプレミスとオフプレミスの両方が混在する状況を指すのではなく、オンプレミスとオフプレミスの両方があたかも1つの環境に見えるようするのがポイントだ。
これまでのハイブリッド・クラウドは、せいぜいオンプレミスとオフプレミスでデータ連係するのが関の山。それぞれは独立した存在だった。OracleやMicrosoftは両方において同一のアーキテクチャを採用しているので、顧客が望めば自由に両者間を行き来できると主張してきた。つまりは、そこがオフプレミスのクラウドしか持たないセールスフォースドットコムなどとの違い。
IBMの場合は、それをさらに一歩進めた考え方だ。行き来するだけでなく、オンプレミス、オフプレミスのリソースを1つに捉え、動かしたいアプリケーションのワークロードに応じダイナミックに両方のリソースを利用できるようにする。これを実現するには、たんにオープンな口を持っているだけでなくクラウドのアーキテクチャそのものがオープンでなければならない。
このオープンクラウドの考え方を、1社で主張していても始まらない。ということもあり、オープンなPaaS基盤であるCloud Foundryを進めてきたPivotal、それに賛同していたHPやSAP、Rackspace、もちろんEMCやVMwareらとともに「Cloud Foundry Foundation」を設立し、この活動に積極的に貢献していくことを発表した。IBMはクラウドの世界におけるオープン化のリーダーシップをとっていくと言うことだ。
このFoundationの活動からどのような成果が生まれてくるかは未知数。今後は「オープンなクラウドを推進」する陣営と「それ以外」という構図ができあがりそうな予感がする。いまのところ「それ以外」側は個別の存在であり、彼らが手を組むことはなさそうだ。
さまざまなクラウドサービス、さらには既存のオンプレミス環境があっても、あたかもそれが1つの環境のように運用できる。これは理想的な姿だろう。とはいえ実際に真にシームレスな環境を実現するのは、そう簡単なことではない。それを楽にするためのツールやオープンスタンダードなインターフェイスがこれから揃ってくるだろうが、それらを使ったとしても1つのダイナミック環境に仕上げるにはそれなりに手間がかかるはず。手間が大きくなれば、素早く手間なく実現できるクラウドのメリットを損ない兼ねない。むしろ、ベンダーロックインし1ベンダー環境にすれば、Dynamic Cloud環境も作りやすいかもという矛盾も。ユーザーサイドとしては、現時点のメリット、デメリットだけでなく、中長期的に選ぶ環境がどのように進化するかを見極める必要がありそうだ。