ハッキング被害について調べるうちにセキュリティの虜に
日本にセキュリティ専門の会社は数多あれど、セキュリティのコア技術の研究と製品開発を本格的に手掛ける会社となると、そう多くはない。正確には、「ほとんどない」と言った方が正しいのかもしれない。高度な技術と長年の研究開発の蓄積を駆使して作られた本格的なセキュリティ製品は、そのほとんどが米国ベンダーの手によるものだ。
しかし少ないながら、日本で独自の研究開発活動を行っているセキュリティ会社もある。標的型攻撃の対策製品「FFR yarai」で知られる株式会社FFRI(以下、FFRI)もそうした企業の1社だ。日本では珍しく、独自のセキュリティ技術の研究と製品開発に力を入れている会社で、2014年9月にはマザーズ上場を果たすなど、現在急成長を遂げている。
ちなみに、同社の創業者で代表取締役社長を務める鵜飼裕司氏は、これまで数々の重大なセキュリティ脆弱性を発見し、世界最大の情報セキュリティカンファレンス「Black Hat」で審査員を務めるなど、世界的に知られるセキュリティ研究者だ。すでに小学生の頃には、パソコンゲームを独自に開発しては雑誌に投稿して、小遣い稼ぎをしていたというから、早くからコンピュータ技術者としての才能が開花していたようだ。
「本当はゲームをやるためにファミコンが欲しかったんですけど、父親が『これからはパソコンだ! パソコンなら、いくらでもゲームが作れるんだろう?』と、小学校5年生のときに当時はやっていたMSXパソコンを買ってくれたんです。雑誌に載っていたBASICやマシン語のゲームプログラムをこれに打ち込んで遊んでいるうちに、いつの間にか自然とプログラミングを覚えていました」
少年時代を、本人いわく「典型的なパソコン少年」として過ごした同氏は、進学先として高等専門学校の情報工学科を選択。そこで本格的な情報工学の教育を受けるととともに、18歳のころにはソフトウェア開発の仕事をすでに請け負っていたという。
高専を卒業後は、情報処理の世界をさらに極めるべく、地元徳島の徳島大学 工学部に編入。ここでは大学院まで進み、「医療画像工学」という研究テーマで博士号を取得した。ちなみに同氏がセキュリティの世界と初めて触れたのは、ちょうどこのころのことだった。
「大学で使っていたワークステーションが、ハッキングの被害を受けたんです。いろいろ調べてみて、セキュリティ脆弱性攻撃のソースコードらしきものを入手できたのですが、これを一目見て衝撃を受けました。それまで、自身のプログラミングスキルにはかなり自信がありましたし、それなりに実績も残してきたつもりだったのですが、まったく内容が理解できなかった。『こんな世界があったのか……』と、ショックを受けましたね。この出来事があって以降、セキュリティの世界にどっぷりはまることになりました」