
お陰様で、この連載は多くの方に読んでいただけているようで、私のところにも多くのご意見、ご感想をいただけるようになりました。お付き合いのあるITユーザの方やベンダの技術者、裁判所の民事調停委員の方々からも、この連載で書いたIT紛争やその結末について様々なお話をいただくのですが、それらの中には、「勉強になった」「納得した」 というものもあれば、 「ユーザに厳しすぎる」「なぜ、こんな判断になるのか?」と疑問を投げかけるものもあります。中には、非常に鋭い洞察で記事の内容について別の角度から解説をしてくださるかたもあり、私としても大変勉強になるところです。どのようなご意見でも、自分の書いたものを誰かが読んでいただいており、なんらかの感想を持っていただけることは、筆者にとって何より嬉しいことで、モチベーションも大いに上がるところです。この場を借りて読者の皆さまには改めて御礼申し上げます。
多くの関心を呼んだ “システムの機能追加に関する問題”
さて、このように様々なご意見、ご感想をいただく中でも、『第7回 ベンダが勝手に機能を追加した!それでも費用を払うべき?』については、裁判所の判断が、やや意外なものであったこともあり、多くの方からご意見をいただくことができました。「システムの機能追加については、たとえ正式な合意がないままベンダーが作業をしても、場合によってユーザーが費用を払わなければならない。」とする裁判所の判断には、「じゃあ、契約書とは何なのか」「ベンダのやり得か?」という嘆きともとれる言葉を何人かのユーザサイドの方から聞きました。機能追加の合意条件とはなんなのか、作業範囲や仕様の定義が曖昧になりやすいコンピュータシステムの開発では難しい問題ですよね。
当初の契約範囲を超える機能追加と変更はITの宿命
そこで今回は、この機能追加及び変更と、その判断基準になる契約範囲について、もう少し考えてみたいと思います。第7回と似たような事件ですが、コンピュータシステムの機能追加に関する裁判所の基本的な考え方が垣間見える判決かと思います。まずは、事件の概要からご覧ください。
【契約範囲を超える機能追加に関する裁判の例】
(東京地方裁判所 平成15年5月8日判決より抜粋・要約)
あるベンダが通信販売業者 (以下 ユーザ) から販売管理システムの開発を請負ったが、開発したシステムに対してはユーザから多数の修正要求(主として機能追加)があった。ベンダはユーザの要求を受けてこの作業を行ったが、修正作業の多くを契約範囲外と認識し、ユーザに対して追加費用(3150円)を請求する見積もり書が提出した。
しかし、ユーザは修正要求が元々システム化の対象範囲であるとし、費用の支払いを拒んだことから、ベンダが支払いを求めて訴訟となった。
「いつもながらに…」と言ってしまっては不謹慎かもしれませんが、この手の事件は、今やIT訴訟の定番と言っても良いほどよく見聞きする 「機能追加ですね。費用ください」「いやいや元々の契約範囲でしょ?」という争いです。コンピュータシステムの契約範囲 (システム化対象範囲) や仕様(この場合は機能) は、その完成した姿をイメージしづらいことから、最初から正しく定義することは困難、というか事実上ほとんど無理です。なので、開発している最中にこれらが変わってしまい、その費用や責任を巡ってユーザーとベンダが争うのは、ある意味ITの宿命とも言えます。
この記事は参考になりましたか?
- この記事の著者
-
細川義洋(ホソカワヨシヒロ)
ITプロセスコンサルタント東京地方裁判所 民事調停委員 IT専門委員1964年神奈川県横浜市生まれ。立教大学経済学部経済学科卒。大学を卒業後、日本電気ソフトウェア㈱ (現 NECソリューションイノベータ㈱)にて金融業向け情報システム及びネットワークシステムの開発・運用に従事した後、2005年より20...
※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
この記事は参考になりましたか?
この記事をシェア