企業におけるクライシス経験数は増加傾向にある
本題に入る前に「クライシスマネジメント」の定義から。2月16日に開催された記者向け説明会にてトーマツ クライシスマネジメント日本リーダーの飯塚智氏は冒頭にトーマツにおけるクライシスの定義を下記のように示した。
「組織の戦略目標、重要な資産(人的資産、物的資産、知的財産、情報等)、レピュテーション、その組織の存在をも著しく毀損させる可能性のある大規模な、もしくは複合的な事象を指す」
加えてリスクマネジメントとクライシスマネジメントの違いも示した。どちらも広義のリスクマネジメントに含まれるものの、狭義のリスクマネジメントは「リスクが発現しないようにリスクを管理する」のに対し、クライシスマネジメントは「リスクが発現した場合の損失を抑えるように管理する」となる。リスクを火事と考えたら、火事を起こさないように火の元を管理するのが狭義のリスクマネジメントであり、あらかじめ避難経路や消化器を準備しておくのがクライシスマネジメントとなる。
リスクマネジメントやクライシスマネジメントに取り組む際、あらかじめ関係者間で用語の定義を確認しておくことが大事だ。
なお今回の調査は国内上場企業を対象とし、質問紙を郵送(一部電話でヒアリング)し、独立した調査会社が集計するという形で実施された。有効回答数は431件、うち173社については海外子会社についても回答が得られている。調査機関は2014年10月~12月。
では調査結果を見ていこう。まずはクライシスをどれだけ経験したか。過去12年間(2003~2014年)で65%の企業がクライシスを経験したと回答した。3年おきに区切ると、2009~2011年のクライシス経験数が突出して多い。この期間に経験したクライシスの内容を見ると「自然災害関連」がトップを占めており、明らかに東日本大震災の影響が大きかったことを物語っている(下表)。
それ以外の期間となるとクライシスの内容は変わる。トップを占めるのは「自然災害関連」ではない。日本は自然災害が多いにもかかわらずだ。2009~2011年を除く全ての期間についてトップを占めるのが「製品関連」である。例えばサプライチェーン寸断、品質不良、設備事故等となる。業務に直結するインシデントと考えていいだろう。
製品管理と自然災害に続くのが「不正関連」。例えば金融犯罪、不正行為、法律違反など。そして近年の傾向として注目すべきなのが「システム関連」である。これはサイバー攻撃、情報漏えい、ウィルス感染など。直近の2012~2014年を除き4~5位だったにもかかわらず、2012~2014年では3位に躍り出た。近年急速に増えているクライシスとなる。
なお回答企業で海外に関連会社(海外子会社)を保有していたのは173社。海外子会社におけるクライシスの経験で見ると、過去12年間でクライシスを経験したのが36%と日本企業と比べて約半数となる(下表)。
経験したクライシスで見ると日本とは内容が異なる。2003~2009年の間は1位と2位で変動はあるものの製品関連と自然災害関連が上位2つを占めており、日本よりも自然災害を経験していると挙げた割合が若干高くなっている。日本で急上昇しているシステム関連については、全期間を通じて若干日本より順位は高めではあるものの、日本のような急上昇は見られない。
代わりに直近(2012~2014年)で急上昇しているのが「政治関連」である。国際紛争、テロなどである。直近以外の期間において「政治関連」は4~5位であったにも関わらず、直近ではトップ。海外において急増しているクライシスであり、グローバル展開を考えるなら避けては通れない課題であることを示す。
なお海外子会社におけるクライシスは内容により経験した地域が異なる。上位を示す製品関連、自然災害関連、政治関連において経験した地域のトップは東南アジア。とはいえ東アジアも要注意だ。先述した3種類のクライシスでは全て次点に東アジアが占め、システム関連とレピュテーション関連では東アジアがトップとなっている。
クライシス数の増減で見ると、全体的に増加傾向が見て取れる。日本企業で見ると震災の影響で2009~2011年が突出しているものの、直近の2012~2014年でそれ以前のレベルに下がることはなく増えている(下表)。
海外子会社で見ると2009年以降明らかに増えているのが分かる(下表)。