自分たちの業界に若者が少ないと嘆きながらも、中高年層は自分が座っている椅子を明け渡す気はほとんどないので、ただでさえ少ない若者はますますオールドファッションな業界から離れていきます。あまり悪く言いたくないですが、筆者が関係する国内IT業界も国内メディアもその傾向が強いかもしれません。新陳代謝が起こらない社会では、ダイナミックな変化が起こっている世界に追随していくのはひどく難しいように思えます。
メディア業界やIT業界に限らず、少子高齢化という事態は日本がこれから数十年に渡って向き合わなくてはならない深刻な問題です。本気のスタンスで臨まないと自社だけでなく業界全体が消滅しかねないことを多くの人々が実感としてもっているものの、前例のない大胆な改革には踏み切れない、そんなジレンマを抱えている国内企業は少なくないはずです。
そんな中、ITを活用することで、業界内の旧弊な商慣習を変えていこうとしている企業も少しずつ増えているのは確かです。とくに、歴史の長い業界ほど必要以上に煩雑で意味のないシステムが残っており、こうしたレガシーはこれからの少子高齢化社会にはマッチしません。ITのチカラで複雑なしくみをシンプルに変え、自社のスタッフ、そして業界全体をハッピーにしたい ――今回はシップス 情報システム部 部長の大塚祐史さんに、RFIDによって小売業界に起こりつつある変化についてお話を伺いました。
棚卸しは大切な仕事、でも従業員にとっては"やりたくない"仕事
国内有数のアパレル専門店として幅広い年齢層に人気の高いブランド、SHIPS(シップス)は、今年で創立40週年を迎えます。SHIPSというと、高級セレクトショップらしい質の高い衣類や小物類が店内にセンスよく陳列されているイメージがあるのですが、なんと1店舗あたり平均で1万点を超える在庫があるとのこと。「たとえば同じ型のニットひとつを取っても3色3サイズくらいで展開されることが普通なので、小さめの店舗でもそのくらいの数にはなりますね」と大塚さん。あの整然とした商品レイアウトも1万点を超える品物から選ばれているんですね。
商品の数が多ければ当然、それを効率的に管理する必要が生じます。シップスでは在庫の数量を数える"棚卸し"を1年に6回行っていますが、これまでこの作業に1店舗あたり30時間を要していました。「現時点での在庫高を正確に把握する棚卸しは小売りにとって非常に重要な作業です。ですが商品の数が膨大なので、作業にものすごく時間がかかる。体力的にもキツい仕事ですし、店舗が負担する人件費などのコストも少なくありません」と大塚さん。小売では在庫高がわからないと粗利が計算できなくなります。いい加減な棚卸しを続けていれば在庫過大や在庫過少といった事態を招き、法律上の責任を問われることにもなりかねません。また、ファッション業界ではここ最近、マーチャンダイジングがデータ中心に行われるようになっているので、在庫データの精度を高く保つことは経営の生命線だといえます。しかし、どんなに大切な仕事だと頭では理解していても、30時間もかかる苦痛な作業が平均で2カ月に1度もあれば、従業員の心身は間違いなく疲弊します。つらい業務は間違いなく販売員を小売の世界から遠ざける - 棚卸しはシップスだけでなく、小売業界全体が抱える大きな課題となっていました。
冒頭でも触れましたが、今後は少子高齢化によりあらゆる業界で人不足が深刻になることは間違いありません。「販売員がいないというのは本当に切実な問題です。販売員がいなければセレクトショップは店舗を維持できません」と大塚さん。ただでさえ少ない販売員が棚卸しのせいでさらに減るとしたら、それはなんとか食い止めないといけない――ここでシップスが取り組んだ施策がRFIDによる業務効率改善でした。