基幹系と情報系の統合はまだ現実的とは言えない
この場合、OLTPと情報系のシステムが統合化されたというよりは、ERPの仕組みにBI的なレポート機能が付いたものと捉えるのが正解だろう。ERPなどで更新されるリアルタイムなデータに対し、簡単なレポート画面などを提供するもの。こういった仕組みは今やむしろ当然で、ERPパッケージなどの新しい「売り機能」の1つとも言える。
しかし、このERPに加わったBI機能で高度で複雑な分析ができるわけではない。これを使ってトランザクション処理をするデータベースで複雑かつ高度な分析処理を行えば、OLTP側の処理に影響を及ぼすのは必至だ。さらに、いくら処理が速くなったとはいえ、OLTP用に最適化されているデータベースでは、高度な分析処理では十分な性能を発揮できない可能性も高い。
トランザクション系のシステムと情報系のシステムの統合は、今のところは理想であり現実的ではない。しかしそれを実際に行った事例の話を、先日開催された「Teradata 2015 PARTNERS」で聞く機会があった。それが都市銀行である「りそな銀行」のMCIF(Marketing Customer Information File)とCRMシステムの統合だ。この事例で利用されているのが、トランザクション系に強いOracleやSQL Serverなどのデータベースではなく、ある意味徹底してデータウェアハウス向けに特化しているTeradataだったのも興味深い。
オムニチャネル戦略のために顧客の全てのデータを一元化したい
MCIFとは、マーケティング用の顧客情報データベースのことだ。主に銀行などの金融機関では、これをMCIFと呼ぶことが多い。古くは汎用機のシステムとして構築されてきたが、勘定系システムとは異なり比較的オープンシステム化が早くから進んでいる。りそな銀行でも2015年1月には、MCIFを含む情報系システムのオープンシステム化を終えている。一般に、MCIFでは数多くのシステムから顧客情報を抽出し、名寄せしバッチ処理などで統合化してマーケティングやセールス活動に利用することになる。
ところでりそな銀行では今、若者層や支店のない地域の顧客取り込みなどのために、さまざまな工夫を行っている最中だ。そのために営業スタイルの改革、チャネル改革、マーケティング改革に取り組んでおり、これらはオムニチャネル戦略として明らかにされている。このオムニチャネル戦略では、インターネット支店の開設も計画されておりタブレット端末を活用した営業活動なども始めている。今回のMCIFとCRMの統合も、そういった戦略を実現するためのITシステム基盤の1つとなる。
2011年、りそな銀行では情報系システムのオープンシステム化を機にMCIFとCRMを統合しようと考えた。「コールセンターへの問い合わせはもちろん、ATMでお金を下ろすといった顧客の行動など、顧客との接点全ての情報をTeradataに集めることにしました」と言うのは、りそなホールディングス IT企画部およびりそな銀行 システム部のグループリーダーである亀岡修氏だ。
りそな銀行ではMCIFとCRMは、物理的に別のシステムだった。それぞれのシステムで持っていたデータはかなり似ていて重複もあった。なので基幹系のシステムに顧客に関する情報を渡そうとすれば、個別に渡すか両方のデータを一緒にして整合性をとるといった手間が必要だった。
そんなシステムのビジネス上の課題、改善点は3つあった。1つは、顧客情報、取引情報、キャンペーンの情報を一元化したデータベースが欲しかったということ。2つ目はATMやテレフォンバンキング、コールセンター、営業店など顧客との接点で一貫性のあるセールス活動をしたい、そのためのIT基盤が欲しかった。そして3つめが社員が使うシステムの一新で、キャンペーン設計などを行うシステムと顧客チャネルのシステムでデータをきちんと連動させPDCAサイクルを速く回したいニーズに応えることだった。
これらの課題の解決策は、ばらばらだった顧客情報やキャンペーン情報を一元化することだった。複数のシステムの情報をTeradataに一元化し、MCIFだけでなくCRMでも利用できるデータベースを実現することにした。できあがったシステムでは、チャネルからの全てのトランザクションをTeradataで受け、そのデータを使ってすぐにキャンペーン設計ができるようになった。