3D CADへの投資が増加している。矢野経済研究所が2016年11月に公開した「CAD/CAM/CAEシステム市場の調査」(リリース)によると、2016年における同市場規模は、前年度比4.4%増の3,449億円に達する見込みであるという。実際、IoT(Internet of Things)デバイスや微細構造を使った複雑な形状構築の登場で、3D CADが担う役割は拡大している。こうした状況下、3D CAD設計/解析ソリューションを提供する仏ダッソー・システムズ傘下のソリッドワークスは、どのような戦略を執るのか――。同社で最高経営責任者(CEO)を務めるジャン・パオロ・バッシ氏に話を聞いた。
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米国ロサンゼルスで開催した「SOLIDWORKS World 2017」(2017年2月5日~8日開催)の期間中、
日本メディアのグループインタビューに応じた
――SOLIDWORKS World 2017のテーマでは「THE NEW.THE NEXT.THE NEVER BEFORE」を掲げた。メッセージに込められた戦略を教えてほしい。
バッシ氏 ソリッドワークスでは注力する分野として、「顧客のイノベーション支援」「設計から製造に至るプロセスの簡素化」「設計フェーズのパラダイムシフト」「起業家支援と教育」の4つを掲げている。顧客は既存の作業を効率化するよりも、イノベーションを創造するソリューションを求めている。われわれは、こうした要求に応えるべく、顧客がイノベーションするために何をすればよいかを考え、必要なものを提供していく。これが大枠の戦略だ。

「設計業界全体の未来をすばらしいものにする」と訴えた
――次期バージョン「SOLIDWORKS 2018」では、これまでオプションだったCAM(Computer Aided Manufacturing…コンピュータ支援製造。CADで作成した設計データをベースに、製造する工作機械の制御プログラミングを作成する)を無償提供すると発表した。これは、「設計から製造に至るプロセスの簡素化」の一環という位置づけか。
バッシ氏 その通りだ。われわれは、設計から製造までのプロセスを、ワンクリックで実現できようにするべきだと考えている。(設計の)アイデアから製造まで、一足飛びにいける――。それがソリッドワークスの描く未来像だ。設計から製造までの作業で、設計者の手を煩わすものがあってはならない。すべてのデスクトップ版SOLIDWORKSに、CAMツールである「SOLIDWORKS CAM」を無償提供する意味は、こうした考えに則ったものだ。
それを実現するためには、製造指示書が3Dモデルの中に包含され、製造装置が自動で読めるものでなければならない。設計から製造への流れを自動化するためには、モデルベース開発(Model Based Development)や、製造を意図したデザイン(Design for Manufacturing)が必要だ。すでにソリッドワークスではこれらの技術を導入している。
また、われわれれは、SOLIDWORKS CAMのAPI(Application Programming Interface)を公開している。(設計から製造までのプロセスを自動化するからといって)既存のパートナーシップを変えることは考えていない。
――「設計フェーズのパラダイムシフト」とは具体的に何を指すのか。
バッシ氏 これまでのシミュレーションは、設計したものを検証するフェーズで実施されていた。しかし、これからは、「設計する前に機能要件を設定し、それを満たす形状を設計する」というプロセスに変わっていく。つまり、シミュレーションは、設計の最初の段階で実施するものになる。
具体的には、設計者が「荷重」や「拘束」といった設計要件を、設計の前段階で指示する。すると、コンピュータが要件を満たす形状を自動的に算出し、提示するといったプロセスになる。

トポロジー最適化…「位相最適化」ともいう。
製品を使用する再に要求される荷重/拘束条件を満たしつつ、設計空間内で効率のよい形状を設計することを指す。
トポロジー最適化でシミュレーションのプロセスは大きく変わるという
これらを実現する技術が、次期バージョン以降に搭載予定の「トポロジー最適化」や、デザイン(設計)をコンピュータが予測し、作業のガイダンスしてくれる「デザインガイダンス」に当たる。
(コンピュータが設計する)トポロジー最適化では、人間では考えもつかないような形状を提示することもある。つまり、設計の根本に関わるコンピュータの役割は、これまで以上に大きくなるのだ。CADのAは“Aided(支援)”を意味するが、トポロジー最適化のような機能は、人間の能力を“Augmented(拡張)”するものだと言えるだろう。
さらにわれわれは、教育を通じて人材育成に注力し、設計者を支援していく。例えば、近年発表した「SOLIDWORKS Apps for Kids」は、4才から3Dデザインの素晴らしさを実感できるものになっている。また、起業家に対しては、ソリッドワークスの製品をトライアルで利用できる支援プログラムも充実させている。こうした活動通じて、起業する障壁を下げることにも注力している。
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鈴木恭子(スズキキョウコ)
ITジャーナリスト。
週刊誌記者などを経て、2001年IDGジャパンに入社しWindows Server World、Computerworldを担当。2013年6月にITジャーナリストとして独立した。主な専門分野はIoTとセキュリティ。当面の目標はOWSイベントで泳ぐこと。※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
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