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紛争事例に学ぶ、ITユーザの心得

企業のドメインをめぐるトラブル―名前を含むドメインの買い取りを要求されたら?


 この連載では、システム開発をめぐるIT紛争を例に挙げて、そこから、プロジェクト成功の為に必要なこと、気をつけるべきことなどを解説しているのですが、最近のIT判例を見ていると、そうしたこと以外にも、ITユーザが気をつけるべきことが沢山あることに気づきます。今回は、そんな中で最近時々見る、企業のドメインを巡るトラブルについて、ご紹介したいと思います。同じようなことは、どの企業に対しても起き得ることですが、判例を見る限り、落ち着いて対処をすれば被害を受けずにすみますが、何も知らずに相手のペースに乗ってしまうと、損害を被る危険もあります。今回はいつもの連載の主旨とはちょっと外れますが、注意喚起の意味で敢えてお話しさせていただきたいと思います。

有名企業の名前を含むドメインを取得し買い取りを要求した事件

 (東京地方裁判所 平成19年3月13日判決より)

 ある者が、広告代理店最大手の電通に対し、自分が取得したドメインを10億円で買い取って欲しいと要求しました。対象となるドメイン名は、”dentsu.biz”, “dentsu.org, dentsu.vc” など,いかにも、電通と関連するサイトであると勘違いさせるようなもので、合計8個でした。

 電通は、当然、これに応じることなく、逆に、この人間に対し、ドメインの使用差し止めと登録抹消を行うように求めました。

 「dentsu」という誰もが知る企業の名前を使用したドメインを取得し、しかも、その買取を求めているわけですから、正直、悪意を感じざるを得ません。ただ、ドメインの取得は、その名前が既に存在するものでなければ認められる可能性が高いですし、費用も大きくありませんので、こうしたことは誰もが簡単にできてしまいます。

 また、ドメインの売り買い自体は、他でも行われてもおり、それ自体が悪というわけでもありません。なんとなく、悪意は感じるものの、じゃあ、どこが悪いんだと居直られると、さて、どのように対抗するのか。この手のことに慣れていない人は、ちょっと慌ててしまうかもしれませんね。正確には把握していませんが、実際、こうした要求に応じてうっかりドメインを買い取ってしまう会社も、もしかしたらあるのかもしれません。だからこそ、こうした事件がこの例だけでなく、何件も発生するのでしょう。

ドメインを取得し買い取りを要求に対抗できるのか

 さて、この事件について裁判所は、どのように判断したのでしょうか。

 こうした買い取り要求に対して、法律はどうなっているのでしょうか。実は、この事件のような例に対応するために「不正競争防止法」という法律があります。その中には、平成13年の改正で、「不正にドメインを使用する行為」というものが加わりました。条文を見てみましょう。

  (不正競争の類型 第13号)

 不正の利益を得る目的または他人に損害を加える目的で、他人の特定商品等表示と同一または類似のドメイン名を使用する権利を取得・保有し、又はそのドメイン名を使用する行為

 ご覧と通り、まず、しっかりと「ドメイン」というものが不正競争防止法の対象であることを明らかにし、それを使って不正の利益を得ることや他人に損害を加えるようなことをしてはいけないと、定められています。

 今回の件で言えば、まずドメイン名が誰が見ても類似していることは確かですし、それを買い取るように要求することは”不正の利益を得る行為” ということになります。裁判所はこうした点を認めて、電通の求めるドメインの差し止めと登録抹消を認めた上で、損害賠償までこの行為者に命じることになりました。

次のページ
不正競争防止法のことを知っておけば、慌てる必要なし

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この記事の著者

細川義洋(ホソカワヨシヒロ)

ITプロセスコンサルタント東京地方裁判所 民事調停委員 IT専門委員1964年神奈川県横浜市生まれ。立教大学経済学部経済学科卒。大学を卒業後、日本電気ソフトウェア㈱ (現 NECソリューションイノベータ㈱)にて金融業向け情報システム及びネットワークシステムの開発・運用に従事した後、2005年より20...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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