フィジビリティスタディーに特化したITサービスを提供
エフエスクリエーションは、名古屋に本拠を置く設立3年目の新興企業。従業員数8名(2017年3月現在)と小さな所帯ながら、Microsoft MVPの取得者も含む腕利きのエンジニアを揃える精鋭集団である。同社の社名はフィジビリティスタディー(Feasibility Study)の略称である「エフエス」に由来しており、同社 CEO 辻村智恵子氏によれば、「フィジビリティスタディーの手法を用いた課題解決が弊社の特徴であり強み」だという。
「起業前はあるSI企業で働いていたのですが、出来上がったシステムと顧客の要望との間にたびたびギャップが生じるのはなぜかとずっと考えてきました。その結果、システム構築に注力するSI企業と、構築後のシステム利用にフォーカスする顧客との間の認識のギャップに原因があるとの結論に至りました。このギャップを埋めるには、システムの運用と効果を想定したフィジビリティスタディーを事前に入念に行い、運用時に生じる可能性のある潜在的な課題をあらかじめつぶしておくことが大事だと考えたのです」
そしてこのような手法を進める上では、クラウドの利用が非常に効果的なのだという。クラウドを利用すれば、システムやインフラの構築作業の大部分から解放されるため、その分の労力をフィジビリティスタディーに充てられるようになるのだ。
また同社は、数あるクラウドサービスの中でも特にMicrosoft Azureを使ったフィジビリティスタディーに強みを持つ。Microsoft Azureを選ぶ理由について、辻村氏は「機能面だけを見ればほかにも優れたクラウドサービスはありますが、企業が使うことを前提としたSLAやガバナンス、安定性などを考慮すると、自ずとMicrosoft Azureに行き着くケースが多くなります」と説明する。
Microsoft Azureを使ったソリューションに柔軟に対応
同社が提供する「Azure 活用アセスメント」は、中部地区および関西地区の企業に対して、Microsoft Azureを使った課題解決の事前検証サービスを提供するというものだ。その具体的な内容は多岐に渡り、Microsoft Azureの基礎を学べる座学形式の講義から、実際にユーザー企業のビジネス課題を抽出し、それをMicrosoft Azureを使って解決するための検証システムの構築・評価までをも含む。
ちなみに、同社が行うフィジビリティスタディーは、決して机上の検討だけに終わることなく、必ずユーザーが実際の仕組みを直接動かして体感できるところまで持っていく。Azure 活用アセスメントも同様に、Microsoft Azureを使って構築した検証環境を実際に動かしてみるところまで必ず持っていくという。
「クラウドのいいところは、構築の手間が省ける分、すぐ動かせることです。そうやって動かしてみると、当初は想定していなかった課題や非機能要件が見えてきます。それらを事前につぶしておくことで、その後の本格的なクラウド利用への道が拓けるのです」(辻村氏)
ただし一言で「クラウド利用」といっても、その形態や用途はさまざまだ。IaaSを使って仮想サーバを立てたり、クラウドストレージにバックアップをとったりといったオーソドックスな使い方もあれば、近年ではIoTやAIなどの先進的な技術をクラウドサービスで利用するケースも増えてきている。エフエスクリエーションでは、前者のようなオーソドックスなクラウド利用はもちろんだが、後者の先進的な利用法についても積極的に顧客に提案しているという。
その一例が、Microsoft Azureを使ったIoTやAIの仕組みの提案だ。顧客が抱えるビジネス課題の解決にIoTやAIが有効だと判断すれば、Azure 活用アセスメントの中で実際に課題解決につながるIoTやAIの仕組みを開発し、実際に動かしてみることで実現可能性の評価や効果の検証、課題の洗い出しなどを行う。
IoTやAIだけではない。シナリオベースでBackup、ファイルサーバー、IoT/AI、基幹システムなど、課題に合わせたプログラムが用意されている。同社 CTO 豊田修慈氏によれば、Microsoft Azureを使ったソリューションであれば、基本的にどのような分野であっても柔軟に対応できるという。
たとえば、あるメディア関連事業社の事例では、コンテンツ中に含まれた言葉をSNSなどから収集。分析の場ではCognitiveサービスにかけて、否定的なニュアンスを含む言葉、肯定的なニュアンスを含む言葉などを分析していく。具体的には、SQLに上げ、PowerBIを使って可視化するなどして分析を進めていく……このように「何が知りたいのか」「どういう課題を解決したいのか」に基づいて、柔軟に対応し、カスタマイズすることで、活用の幅が広がっていくというわけだ。
先進技術に対するハードルをできるだけ低く設定する
Azure 活用アセスメントを通じて、既に多くの企業がMicrosoft Azureを使ったIoTやAIに大きな可能性を見いだしているという。例えば、とある製造企業に対して設備故障の予兆検知の仕組みを提案した際には、単に「センサーを通じてデータを収集して機械学習にかける」だけでなく、よりユーザーの導入ハードルを低くすべく、独自の工夫を盛り込んだという。
「センサーから収集した生データをいきなりMicrosoft Azureのマシンラーニングに投入しても、思うような結果は得られませんし、膨大なコストが掛かってしまいます。そこで私たちは、あらかじめマシンラーニングのアルゴリズムに適した形にデータを変換する方法を考案し、実際にそれが動く仕組みをお客さまに体感していただきました。こうして導入のハードルをなるべく低く設定することが、お客さまがIoTやAI活用への第一歩を踏み出す大きなきっかけになると考えています」(豊田氏)
このほかにも、高価な画像認識装置の代わりに汎用のビデオカメラを使って、安価に工場内の導線分析が行える仕組みや、Twitterのつぶやき内容の分析をMicrosoft Azureのマシンラーニングを使って手軽に行う方法などを考案し、実際に顧客の要望に応じて動かして見せることで、多くの企業がクラウドやIoT、AIを一気に身近なものに感じられるようになったという。
こうした手法は、まさに同社が重視するフィジビリティスタディーの取り組みそのものだといえる。逆にいえば、同社にとってのコアコンピタンスはフィジビリティスタディーであって、個々の技術要素はそのための道具に過ぎないとも豊田氏は述べる。
「今はクラウドが私たちのやり方に最もマッチしているのでクラウドを積極活用していますが、現在のクラウド利用の主流であるIaaSの利用だけでは、お客さまにとってのメリットはさほど多くないとも感じています。今後はクラウドも構築指向からサービス指向へとシフトし、SaaSのようなサービスを複数組み合わせて利用する形態が一般的になってくると予想しています。またそうなれば、クラウド間にまたがる共通認証基盤の存在がクローズアップされるはずです。当然、Microsoft Azureもそうした機能を今後強化していくでしょうから、私たちも将来を見据えた上でより有効活用していきたいと考えています」