はじめに
「情報システムが使われる業務環境を整理したい」「内部統制において、業務上のリスクを識別し、リスクに対するコントロールを設定したい」……。このような目的を満たすためには、業務プロセスの可視化が効果的です。
本稿では、業務プロセスを可視化する方法について、1つの方法論を提示したいと思います。今回は、本稿の全体像と作図演習の進め方について紹介します。
本稿の全体像
最初に、本稿の全体像について確認します。
本稿の目的
本稿の目的は、業務プロセスの可視化手法を学ぶことです。業務プロセス(仕事の手順)を目で見える形にすることを、本稿では「業務プロセスの可視化」と呼びます。業務プロセスを可視化する目的として、以下が挙げられます。
- 業務の問題点を発見するため
- 情報システムが使われる文脈を定義するため
- 業務マニュアルを作成するため
本稿では、これらの目的を実現する手段として、「業務フロー図」の記述方法について述べようと考えています。本稿の読者は、演習を通じて、図を用いた「業務プロセスの可視化」の手法を習得できます。
図を用いた可視化手法には、以下のような利点があります。
- 業務プロセスの詳細について考察しやすい
- 業務プロセスの詳細について議論しやすい
- 業務プロセスの詳細を相手に伝達しやすい
ひとりで業務プロセスの詳細を考察する場合や、複数人で業務プロセスの詳細を議論する場合、さらに、だれかに業務プロセスの詳細を伝える場合には、図を使うのが効果的です。
文章で業務プロセスを可視化するとしたら、以下のような記述が必要です。ここでは、電話で注文を受ける場合について考えてみましょう。
最初に、顧客が電話で弊社に商品を注文する。そこで、弊社の営業担当者は商品の名称と数量を顧客に聞く。次に、営業担当者はその商品の在庫を確認する。在庫があるとき、営業担当者は顧客に発送予定日を伝える。もし、在庫がないとき、……。
文章は、文字が出現する順番で理解できます。しかし、文章による可視化では、その業務の全体が見えにくいものです。また、文章には、「が」「で」「に」「を」「の」「は」という助詞や、「最初に」「そこで」「次に」「もし」といった副詞や接続詞が存在します。文章には無駄があります。
図には、一般的に必要最小限の情報だけが盛り込まれます。また、言葉の重複を回避できます。これらの理由で、図は、物事についての考察、議論、伝達にとって有効です。
対象読者
本稿の読者としては、以下のような方を想定しています。
- 将来、「業務プロセスの可視化」を実施する方
- 「業務プロセスの可視化」について、従来からの手法を改良したい方
何らかの仕事において「業務プロセスの可視化」にかかわる方はすべて、本稿の読者です。
到達目標
本稿の到達目標は、以下のとおりです。
- 読者が業務プロセスを図示できること、および、第三者がその図によって業務プロセスを理解できること
業務プロセスを図示するといっても、その図示の程度が問題です。図を書いた人しか業務プロセスを理解できなければ、図の意義は低いです。また、業務プロセスに熟知している人ならば、図の理解度が高いのは当然です。したがって、図を書いた人でもなく、業務プロセスに熟知している人でもない第三者が、読者の書いた図を理解できることが重要です。
前提条件
本書の前提条件は、特にありません。ただし、ペンやノートで図を書くなら、問題はありませんが、何らかのツール(ソフトウェア)を使って図を書くなら、ツールの知識が必要です。
なお、図を書くツールとしては、まずはMicrosoft Excelを使ってみましょう。Microsoft Visioなら、いっそう図を書きやすいでしょう。