今年6月に表明したIBMとHortonworksの協業を国内でも展開するとの発表が今週あった。協業により実現するのは「データ・サイエンス・プラットフォーム」の提供だ。この協業では1+1が3や4になる程度のものではなく、10倍くらいの効果を上げられると鼻息を荒く主張するのは、ホートンワークスジャパン株式会社 執行役員社長の廣川裕司氏だ。両社が手を結ぶことで、データ・サイエンス・プラットフォームのソリューションは本当に10倍以上の効果を発揮するだろうか。
パートナー製品の扱いスタンスを大きく変えるIBMのチャレンジ

ここ最近、IBMのデータ活用ソリューションは、Watson一色という感じだった。同社の老舗データベースのDb2なども、Watsonを上手く活用するための「裏方」的な印象になっていた。それが今年の6月にDB2からDb2へと製品名称を変えるリブランディングを行い、改めてデータを効率的に蓄積し活用できるようにするところに力を入れ始めたように見え始めた。
もともとIBMは、Db2を筆頭に旧Netezzaをベースにしたデータウェアハウス用途に向くIBM PureData System for Analyticsがあり、さらには買収したNoSQLデータベースのIBM Cloudant、独自のHadoopディストリビューションとなるIBM BigInsights for Apache Hadoopもある。これらデータ活用のための各種データプラットフォームは、IBMの自前の製品を中心に提供されてきた。それらの上にオープンソースベースのIBM Analytics for Apache Sparkを載せ、これをアナリティクスのエンジンとして活用する絵を描いてきたのだ。
IBMでは独自の製品に加えて、Sparkのようなオープンソース・ソフトウェアも活用していく。とはいえ、どちらかと言えばオープンソースの製品をそのまま使うのではなく、それにIBM独自のエッセンスを加え付加価値を付け提供するのがIBM流のように捉えていた。
それが今回の協業では、従来IBM BigInsights for Apache Hadoopとして提供していたHadoopのデータプラットフォーム領域を、Hortonworks Data Platformに置き換えるという。これは純粋なオープンソースの製品を取り込むのでもなく、はたまた製品買収するのでもない。
IBMのアナリティクス・ソリューションの中に、これまでは存在しなかったパートナー製品を組み込むわけで、これはIBMにとって大きなスタンス変更と捉えることができそうだ。SAPのERP製品のように、自分たちの製品ポートフォリオから明らかに欠けている製品ならば、これまでもIBMは自社ソリューションに取り込むことはあった。それが今回は自社に独自製品があったにも関わらず、パートナーの製品を選んだのだ。
それではIBMが選んだのが、数あるHadoopのディストリビューションの中からHortonworksだったのはなぜだろうか。それはHortonworks Data Platformが、もっともオープンソースのApache Hadoopに近い存在だからだったからではと思う。
MapRのようにHadoopとの互換性は確かにあるが、多くの独自改良を加えているものではだめだったのだろう。Hortonworksは100%オープンソースであることにこだわっていると以前から主張している。100%オープンソースにこだわることで、OSSのコミュニティによる開発スピードの速さというメリットを、最大限に享受できると考えているのだ。
このオープンソースの開発コミュニティのメリットについては、IBMもHortonworksもApacheの開発コミュニティに数多くのコミッターを出している事実からも、十分に理解しているだろう。こういった流れを見ると、当初今回は、IBMの既存顧客を獲りにいけるHortonworksにこそ大きなメリットを生む協業だと思っていた。しかし、これまでにない形でソリューションにパートナー製品を取り込むIBMにとっても、かなり真剣度の高い協業と感じるところだ。
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谷川 耕一(タニカワ コウイチ)
EnterpriseZine/DB Online チーフキュレーターかつてAI、エキスパートシステムが流行っていたころに、開発エンジニアとしてIT業界に。その後UNIXの専門雑誌の編集者を経て、外資系ソフトウェアベンダーの製品マーケティング、広告、広報などの業務を経験。現在はフリーランスのITジャーナリスト...
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