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GDPRの現在地と、その先にあるもの--企業が今すべきこと、未来にむけて考えるべきことをデロイトに聞く

GDPRに準拠することで生まれるチャンス

――GDPR準拠は大変という声も聞きますが、準拠することで得られるメリットにはどのようなものがあるでしょう。

ルイスターバーグ:GDPRは一つの論点として考えるのではなく、データマネジメントという全体像の一部として捉えるべきです。もちろんGDPRによってリスクに対する関心が高まったことは良いことです。また、リスクがあるとともに複数のチャンスもあります。

 例えば、データマネジメントの効率向上です。業種や企業を問わず、今や多くの組織が自らをデータドリブン組織であるとして、データのクオリティを重視するようになりました。また、リスクとメリットの境界も気づかせてくれたと思います。例えば自らの会社が提供する製品やサービスにおいて、必要な情報と余計な情報があるという、情報ガバナンスの視点が生まれたように思います。この気づきがあれば、オペレーションはより効率的になり、結果的にビジネスの成長につながるでしょう。

 GDPRはまた、プライバシーの観点でも、より良い枠組みを提供すると思います。プライバシーの定義は、以前は「放置しておいてもらえる権利」でした。それが今は、「自らコントロールできる権利」にシフトしています。つまり、何らかのメリットがあれば、個人は自分のプライバシーの一部を他人に提供しても構わないと考え、また使って欲しくないと思えば、そのデータを引き揚げることができるという権利です。

 これが制度としてしっかり確立してくれば、消費者にしても従業員にしても、プライバシーとそれを管理する枠組みに対する信頼が生まれてきて、最終的には全ての人々にとってより良い世界になります。GDPRは、そうした貢献ができると思います。今はプロセスのアップグレードなど色々な作業が必要ですし、大変な投資をしなくてはいけません。しかし、そうした投資は最終的に価値が生まれることを認識しているからに他ならないと思います。

 ただ単に、法律を遵守できていなければ罰金が課されるから、それを避けるためだけにコンプライアンスのルールを作ろうと考えている企業は、失敗してしまうと思います。これはある意味でカルチャーのシフトが求められるものです。そのため経営陣も従業員も、これは十分な配慮を必要とする重要なものであるという理解が生まれれば、新たな文化が生まれてくると思います。

――企業や組織がカルチャーのシフトを実践するためには、何が必要でしょうか。

ルイスターバーグ:GDPRが大きなチャレンジ、課題であるということは明らかになりました。おそらく今、多くの組織が評価を行なっているか、あるいは終えたかというようなプロセスにあると思います。

 カルチャーのシフトを実践する上で、GDPRの重要なキーワードのひとつに、アカウンタビリティ(説明責任)があります。これは、企業として自らの責任を明確にすること、そしてエクステンデッドエンタープライズと言うのですが、その会社だけでなく協力会社やパートナー会社も含めて、全体としてコントロールや責任を明確にした上で、それぞれの役割分担を明らかにし、さらにそれに対してモニタリングしていく一連の作業を指します。

 現在は、どのような企業であっても、小さなデータプライバシー室のような部署が用意されていると思います。そこでは企業規模に比べて少人数であり人的資源が限られていることが多いため、どうしてもテクノロジーを使って効率よく管理を行う必要があります。

 また、プライバシーに関連する問題を全てテクノロジーで解決できるわけではありません。重要なことは今ある業務プロセスの中に、テクノロジーも含めたプライバシー保護の仕組みを埋め込んでいくことです。これは「プライバシーバイデザイン」と呼ばれています。

 また、プライバシー影響評価(PIA)も必要です。これに関しては、第三者機関に実施を委託し、文書化して終わりにするのではなく、その後も継続的にモニタリングをフォローアップしていくことが重要です。

 データの進化として今取り上げるべきものに、データアナリティクスとIoTがあります。企業がシフトしていくためには、この両方で成功してくことが欠かせないと思います。そして成功するためには変革が必要です。先ほどのプライバシーバイデザインは、さらに発展していくべきです。

 IoTの世界では、インターネットに接続されたさまざまなモノから膨大なデータが生成されます。そのデータのセキュリティレベルが低かったら、そこに書き込まれていたパーソナルデータをコントロールできず、進歩とは程遠い状況になってしまいます。プライバシーバイデザインでは、プライバシー要件を満たすための基準が明確となり、製品やITシステムにおいてその基準への準拠が求められることは、誰の目から見ても明らかです。

 開発者やマーケティングなど、それぞれの機能を果たす人たちがプライバシーバイデザインをしっかり理解できるようになると、最終的な製品の改善につながりますし、よりコンプライアントな製品を生み出すことができます。それは世間により受け入れられやすいものになるでしょうし、データ共有の意味でもコントロールが明確に行なわれている環境を用意することができるようになると思います。

――日本でGDPRの認知を広げ、企業がシフトしていくためには、企業の誰が旗を振るべきでしょうか。最近ではチーフ・データ・オフィサー(CDO)などを設置するケースもありますが、そういった経営層か、あるいは実際にデータを扱っている部署が率先するべきでしょうか。

ルイスターバーグ:非常にざっくりとした答えで恐縮ですが、基本的にはビジネス側の部署が変革に関与しないと意味がないと思います。コンプライアンスオフィサー、チーフ・データプロテクション・オフィサー、あるいはチーフ・データ・オフィサーの一人に責任を負わせるのは無理だろうと思います。

 その理由は、そういう立場になってしまうと、GDPRを一つの論点として見てしまい、必ずしも望ましい効果を得られないと思うからです。実効性を持たせるには、まずはシニアマネジメントがきちんとコミットメントをした上で、それを組織全体に行き渡らせる必要があると思います。

 CIOのように一人だけに決めるよりは、ビジネスサイドの人と、それを支援するもう一人といった二人以上の組み合わせが現実的だと思います。最終的には、GDPRに対するコンプライアンスもKPIのひとつになっていくでしょう。そのためシニアマネジメントのコミットメントと、ビジネスサイドからの関与が欠かせないと思います。それがないと、GDPRに対するコンプライアンスの他に、もうひとつの手順書ができてしまいます。

次のページ
日本の企業や組織がGDPR準拠に向けてするべきこと

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この記事の著者

吉澤 亨史(ヨシザワ コウジ)

元自動車整備士。整備工場やガソリンスタンド所長などを経て、1996年にフリーランスライターとして独立。以後、雑誌やWebを中心に執筆活動を行う。パソコン、周辺機器、ソフトウェア、携帯電話、セキュリティ、エンタープライズ系など幅広い分野に対応。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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