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株式会社東京証券取引所 IT開発部 株式売買システム部長 宇治浩明氏 なぜ東証は処理時間を1ミリ秒縮めるコトにこだわるのか~arrowhead以前・以後で変わったもの

  2011/06/08 11:00

東京証券取引所(以下、東証)の次世代株式売買システム「arrowhead(アローヘッド)」は2010年1月4日に稼働を開始した。それまでのメインフレームシステムを一掃し、Intel CPUを搭載したIAサーバーとLinuxという、現在、世界の名だたる証券取引所のほとんどが採用しているオープン系のシステムに切り替えたのである。構築に3年の歳月をかけたarrowheadだが、リプレースから1年余、当初目標としていた注文受付レスポンス10ミリ秒に対し実測で2ミリ秒前後、可用性目標99.999%(ファイブナイン)に対し市場停止時間ゼロという、きわめて高い水準での高速性と信頼性を実現している。 だが、世界最高水準の株式売買システムという地位を名実ともに維持するには、たゆまぬ改善が求められる。東証はこのたび、2012年5月をめどにarrowheadの処理性能を強化する姿勢を明らかにした。株式市場のグローバル化、ボーダレス化がかつてない勢いで進行している潮流にあって、arrowheadはどのような進化を果たそうとしているのか。arrowheadのシステム構築を導入時から統括してきた東京証券取引所 IT開発部 株式売買システム部長 宇治浩明氏にお話を伺った。

東京証券取引所が1ミリ秒の短縮に取り組む理由

株式会社東京証券取引所 IT開発部 株式売買システム部長 宇治浩明氏
株式会社東京証券取引所
IT開発部 株式売買システム部長
宇治浩明氏

―先日、arrowheadの注文受付機能の応答時間を、現在の2ミリ秒から1ミリ秒に短縮するという報道がありましたが、実際にそういった取り組みはあるのでしょうか?

 はい。今の計画ですと、2012年5月を目標に注文受付の応答時間を、現在の平均2ミリ秒から1ミリ秒以下に半減させることを予定しています。

―リリースから1年半で性能強化を決断された背景には何があるのでしょうか?

 arrowheadをリリースした2010年1月の時点では、海外の主要な証券取引所の注文応答速度はだいたい数ミリ秒でしたから、平均2ミリ秒のarrowheadは世界最高レベルのスピードと言えました。ただ、この世界は日々進化しており、今年に入ってから1ミリ秒を切り、数百マイクロ秒、つまり0.Xミリ秒というスピードの取引所が出てきました。そうなると、東証としても、そこで劣後しているわけにはいきません。できるだけ早期にキャッチアップしたいということで今回の計画を立てました。

―海外の取引所の動きは、arrowheadに対応したものと見るべきでしょうか?

 必ずしもそういうわけではないと思います。米・欧では、証券取引所の間の競争が非常に激しくなってきています。例えば、米国にはニューヨーク証券取引所とNASDAQという二つの大きな取引所がありますが、それらに加えて私設の取引所が新たに登場してきています。彼らは上場などの機能を持ちませんが、売買の場は提供できる。リソースを売買システムの高速化に集中することで、既存の取引所との差別化を図っています。それに対応して、既存の取引所もシェアを守るために高速化を進める。事情はヨーロッパも同様です。EUが誕生し、各国の取引所が同じ土俵で戦うようになる。さらに私設の取引所が誕生する。米国と同様の競争が起こっています。

―なるほど。そうした戦いがあるのですね。その中に、東証も身を置いている?

 東証の立場は、やや異なります。日本国内における株式売買の約90%を扱っていますし、米国や欧州の取引所と違って応答速度次第でライバルに顧客が奪われるわけではありません。ただ、投資の世界はグローバル化が進んでいますから、取引所のシステムを使っているお客様は同じなんですね。ニューヨークで取引をされるお客様が、ロンドンでも東京でも取引をするようになっています。当然、東京でも海外と同じように取引をしたいと考えるわけです。

 一方、最近、米国や欧州ではシステムを使ったアルゴリズム取引が主流になりつつあります。それぞれが独自の取引ロジックを組んで、状況に応じてシステムが自動的に売買を行うという仕組みです。もし、システムの性能が著しく他国よりも劣るようだと、海外の取引所での状況を見ながら、日本の株式を売買するといったことができません。取引のペースを乱す日本の株を自分のポートフォリオに抱え込むのはリスクだと考えて敬遠するような事態にも繋がってしまいます。

 東証は、日本を代表する取引所ですから、そこから投資家が離れれば、国内にグローバルなお金が入ってこなくなってしまいます。これは、日本という国の経済にとっても重要な問題なのです。

―なるほど。東証の場合は、直接的に応答性能を競う相手がいるわけではないので、絶対的に応答速度で勝っている必要はないが、各国の取引所とある程度、性能を合わせておかないと、世界の投資家から取引の場として見向きもされなくなってしまうということですね。

 その通りです。

 

 (次ページへ続く)

 

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著者プロフィール

  • 五味明子(ゴミ アキコ)

    IT系出版社で編集者としてキャリアを積んだのち、2011年からフリーランスライターとして活動中。フィールドワークはオープンソース、クラウドコンピューティング、データアナリティクスなどエンタープライズITが中心で海外カンファレンスの取材が多い。 Twitter(@g3akk)や自身のブログでITニュースを日々発信中。北海道札幌市出身 / 東京都立大学経済学部卒

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