EnterpriseZine(エンタープライズジン)

EnterpriseZine(エンタープライズジン)

テーマ別に探す

第2回 日本企業がぶち当たる中国市場の3つの壁とは?

  2011/09/22 07:00

マネタイズの難しさ

 最後の障壁は、マネタイズの難しさである。仮に参入規制をクリアし、事業を開始できたとしても、いくつかの要因が複合的に重なり、中国市場で利益をあげることは容易ではない。以下、4つの要因に分解して、中国ネットサービス市場におけるマネタイズの難しさを見ていく。

(1)偽造品・海賊版・違法コピー

 上述のビジネスインフラ未成熟の問題の一つと言えるかもしれないが、周知のように、中国では海賊版・模倣品が大量に製造・販売されている。特許庁が公開している海賊版・模倣品などの被害状況をまとめた統計によると、日本企業が模倣被害を受けた国・地域の約6割が中国市場である。日本企業の模倣被害の約半分はインターネット通販・オークションサイト上の取引によるものである*。

*出所:特許庁「2010年度模倣被害調査報告書」(2011年3月)

 一方、コンテンツに関しても、古くから海賊版CD・DVD等が大量に流通していたが、最近ではインターネット上の違法配信が拡大しており、事態が深刻化している。中国の違法配信による年間の被害総額は100億元(1,300億円)にのぼると報告されている。これは中国の最大コンテンツ市場であるオンラインゲーム市場の売上高が3,500億円であることを鑑みると相当の損失であるといえるだろう*。

*出所:財団法人デジタルコンテンツ協会「デジタルコンテンツの市場環境変化に関する調査研究報告書」(2011年3月)

 以前話を聞いた中国コンテンツ配信ビジネス関係者は、「例えば、スマートフォン向けアプリ市場でアプリを配信した場合、正規版の売上が1億円立ったならば、同等額の海賊版市場が存在すると見た方がよい」と言っていた。中国でECやコンテンツ配信等のビジネスを展開することは、低価格あるいは無料で提供される海賊版・模倣品・違法コピーが氾濫する市場で戦っていくということである。いうまでもなく、正規品・合法コンテンツを販売していく日本企業は、常に売上機会損失のリスクにさらされることになる。

(2)ユーザーの低価格志向

 (1)の偽造品・海賊版・違法コピーの影響もあるが、現状の中国のネット上で人気を集めている商品・コンテンツの大部分は低価格のものである。

 例えば、Taobaoのアパレルカテゴリー人気商品ランキング上位を見ると、女性もののワンピースが50元(約650円)~100元(約1,300円)、パンプスも高いもので150元~200元(約2,600円)など、昨今、日本に参入してきたファストファッションブランド以下の価格帯の商品が並んでいる。他のカテゴリーを見ても、日本と比べると圧倒的に低価格の商品が人気ランキングの上位を占めている。

 これらの商品の中には、並行輸入品や個人輸入品も多く、偽造品・海賊版もあるかもしれない。いずれにしても、ネットショッピングユーザーのニーズが価格に重点が置かれていることが分かる。また、オンライン上で配信されているコンテンツにしても、日本に比べ相当な低価格(もしくは無料)で販売されている。例えば電子書籍分野では、中国移动(China Mobile)が提供する電子書籍定額サービス「手機閲読」からの電子書籍ダウンロードサービスは、1冊1元~10元、章単位で0.04元~0.12元となっており、1ヶ月3元~5元で読み放題の定額サービス等も用意されている*。

*出所:中国移动ウェブページ

 近年、中国は急速な経済成長を続け、国民の平均所得も上がり、多数の中産階級が生まれていると言われている。それは事実だ。さらに、日本の商品やコンテンツは概して、品質が高いと認識され、高い人気を集める商品・サービスが少なくない。しかし、日本製の製品やコンテンツだからといって、インターネット上で高い価格で売れるかというと、そうでもない。

 一つの要因には、先述のネット上の商取引に対する消費者の不信・不安がある。筆者らの調査した限り、富裕層は依然として百貨店などのオフラインで商品を購入し、中産階級についても高額品はリアル店舗で実際に商品を見て購入する傾向が強いようである。加えて、全体としてみれば、まだまだ品質やブランドよりも価格が重視される傾向が強いということもあるのだろう。

 もちろん、中国経済がさらに成長・成熟するにつれ、状況は変わってくると見られる。しかし、少なくとも現段階では、富裕層からの支持を受ける欧米や日本の一部のハイブランドを除けば、ネットで高価格の商品やコンテンツを売るのは容易いことではない。日本企業は、「品質で差別化し、ハイエンドの市場を狙う」という戦略をとりがちだが、ことネットサービスの世界では、ハイエンドの市場は十分に形成されているとは言いがたい状況である。結果として、ボリュームゾーンで勝負していくために、価格を低価格に設定せざるをえないのである。

(3)地場企業の低価格戦略

 日本企業が低価格で勝負せざるをない理由がもう一つある。それは地場企業の低価格戦略である。 地場企業の低価格戦略の背景として、日本企業と比較して、人件費を中心とした諸コストが圧倒的に安いことがある。これは改めて説明するまでも無いだろう。

 しかし、もう一つ留意しておかなければならない背景がある。前回でも伝えたように、いま中国のネット企業は上場ラッシュに沸いている。市場には上場予備軍が列をなしており、将来の成長を見越して、多額のリスクマネーが集まる。このような状況の中、何が起こるか? 

 それは「短期的な利益を度外視して、会員数や売上を最大化」しようとする企業行動である。そして、資本力をバックに低価格攻勢(あるいは価格無料)をかけるのである。筆者らが現地調査で聞いた話では、地場の大手EC企業が「粗利が赤字」で商品販売を行うケースもあるという。資本力を背景に消耗戦に持ち込み、自社だけが生き残る、という競争戦略なのだろうが、いずれにせよ、これをやられてしまうと、上述のようにハイエンド市場が十分に形成されていない状況下で、日本企業はますます苦しくなるのである。

(4)現地有力プラットフォームとの取引条件

 外資による単独での事業展開が難しい以上、日本企業にとって、現地の有力プラットフォーム、例えばECであればECモール、コンテンツ配信であればポータルサイト、SNS、動画共有サイト、さらに携帯向けのEC・コンテンツ配信の場合は携帯通信キャリアのプラットフォームなどを通じて、商品やコンテンツを販売していくことが現実的な方法となる。

 これは日本や欧米でも同じだが、一般に多数のユーザーを集客し、課金・決済等の顧客接点を押さえたプラットフォーム企業の交渉力は強くなる。中でも中国の有力プラットフォーム企業の力は非常に強固であり、プラットフォーム企業が得る各種費用(出店料、広告料等)やレベニューシェア割合などが非常に高いと言われる。筆者らが現地で聞いた話では、例えばSNSのプラットフォームを通じてゲームなどを配信した場合、プラットフォーム事業者に4割、最大で8割近くの大きなレベニューを持っていかれるケースがあるという(注:相対でレベニューシェア率を決めていることも多く、一概に言い切れない面もある)。

 上述のように、そもそも販売単価が低いうえ、プラットフォーム企業に支払うマージンも大きいため、例えばコンテンツ1ダウンロード販売して数円しか戻ってこない、といったケースも決して珍しくない。

 最後に、以上の4つの要素をまとめてみよう。まず、偽造品・海賊版・違法コピーの影響により、そもそも 「有料で売る」あるいは「本来の価値で売る」ことが難しい。そして、ユーザーの低価格志向や現地企業の低価格戦略により、販売単価を低く設定せざるをえない。さらに、現地の有力プラットフォームとの取引条件は厳しく、収益はさらに小さくなる。これらの要因が「三重苦」、「四重苦」となり、中国でネットサービスを運営しマネタイズすることを非常に困難なものにさせている。

 以上のように、中国ネットサービス市場への参入には、いくつもの大きな障壁が存在し、苦労を強いられている日本企業も多い。一部では「中国市場は儲からない」「労多くして実り少なし」といった声も聞こえてくる。読者の中にも、今回のコラムを読んで、中国市場は難しい、と感じた方も多いことだろう。 では、中国市場は本当に儲からないのか?参入価値はないのか?次回はそれを考えてみたい。

 
 


著者プロフィール

  • 紅瀬 雄太(コウセ ユウタ)

    株式会社日本総合研究所 総合研究部門 リサーチ&コンサルティング事業部 アジア・コンテンツ・インキュベーション・プログラム(ACIP) 統括プロデューサー、財団法人台湾資訊工業策進会 専案諮詢 専門はコンテンツ・メディア領域の新事業開発、グローバル進出。日本コンテンツのアジア展開をテーマとするプロジェクト「ACIP」を推進し、現在は財団法人台湾資訊工業策進会(III)との協業により、日台合作によるエンターテインメントコンテンツ(劇場映画、ソーシャルゲーム等)の中国大陸・アジア進出支援の活動中。 

  • 山近 紀行(ヤマチカ ノリユキ)

    株式会社日本総合研究所 総合研究部門 リサーチ&コンサルティング事業部 コンテンツ創発戦略クラスター 研究員 専門は通信・メディア及びコンテンツ領域の環境分析、事業性評価、新規事業展開支援のコンサルティングに従事。日本コンテンツのアジア展開支援活動中。

バックナンバー

連載:中国ITレポート
All contents copyright © 2007-2021 Shoeisha Co., Ltd. All rights reserved. ver.1.5