これまで製品の品質検査には、サイズや温度、圧力などのセンサーデータをもとに品質チェックを行う検査装置が使われていた。しかし、これらの装置で検査できる範囲は小さく、工場内にはいまだに人が目視で検査しているラインが数多くあるという。
ディープラーニングの登場により、これまで人でしかできなかった異常検知をAIが行うことが可能になり、その技術革新を背景に、現在、先駆的企業においてAIによる異常検知の実用化に向けたPOC(概念実証)が取り組まれている。しかし、現状ではAIのモデル作成を1から行っているため、コストと時間が非常にかかっているのが大きなネックになっている。
そこで、システムインテグレータは「ディープラーニングを使った異常検知」を行うのに必要な機能をオールインワンで備えた異常検知システム「AISIA AD」を製品化した。AIに不慣れなユーザーやベンダーでも簡単に使えるため、すそ野を広げて、より多くの企業がAIを使った異常検知を短期導入できるようになるとしている。
「AISIA AD」の概要
・クラウドで学習し、エッジで異常判定
ディープラーニングは、正常・異常を判断できるAI(分類器)を育成する学習プロセスと、出来上がった分類器を使って現場で異常検知を行う判定プロセスから構成される。
「AISIA AD」は、学習環境が整備されているクラウド「Microsoft Azure Learning Service」を使って学習する。学習済の分類器は、「Azure IoT Hub/Edge」を使って簡単にエッジコンピュータに格納(デプロイ)することができる。
エッジとは、IoT端末(ここではカメラの映像)から入力される膨大なデータを、クラウドに流さないでもAI処理できる現場コンピュータのことで、AIの計算処理に向いたGPUチップを積むことにより高速処理が可能になる。
学習プロセスでは、カメラで撮影した動画データをアノテーション(ラベル付け)して学習データとし、それを機械学習(ディープラーニング)して正常・異常を見分けられる分類器(AIモデル)を作る。
判定プロセスでは、製造ラインに流れてくる製品をカメラで撮影し、動画の中の製品(オブジェクト)を自動検知した上で、分類器によって正常異常を判定する。異常検知状況はリアルタイムにモニタリングできるほか、人が介在して正常異常の最終確認を行ったり、異常箇所にヒートマップ(印)を付けたりする仕組みも用意されている。
・「正常データのみ学習」と「正常異常両方を学習」の2つのモデルに対応
ディープラーニングを使った異常検知を導入する際に問題となるのが学習データの用意だ。正常データならたくさんあるが、異常データはあまりないという現場が非常に多い。そこで「AISIA AD」では、「正常データのみ学習するモデル」と「正常異常両方を学習するモデル」の2モデルを装備し、いろいろな現場の事情に応じた導入を可能としている。
モデルによって使われるディープラーニングのアルゴリズムは全く異なる。正常品のみ学習するモデルでは、VAE(Variational Autoencoder)に代表される生成モデルを利用し、独自技術のカメレオンフィルタを使ってノイズと異常を高精度で見分けて異常箇所をヒートマップ表示する。
正常品と異常品の両方を学習するモデルでは、畳み込みニューラルネットワーク(CNN)を使って高精度な判定が行える。転移学習や水増しなどの技術により、少ない学習データで訓練できる仕組みを標準装備しているので、異常品のデータが少なくても対応できる。
・異常検知に必要な機能をオールインワンで装備
「AISIA AD」は、試行錯誤して1からAIモデルを作成するのではなく、異常検知に必要な機能をオールインワンで装備している。「AISIA AD」の主な機能をモジュール別に表したもので、オブジェクト検知、正常・異常判定、異常表示・監視、学習処理、クラウド連携などのモジュールから構成されている。
・幅広い分野への応用
画像を使った異常検知システムは、工場で生産される製品だけでなくさまざまな分野に応用ができる。例えば、内視鏡やエコーなどの動画を使って病気を発見する医療分野、農作物の生育状況や規格外農作物を自動仕分けする農業分野、ドローン映像をもとに橋やトンネルなどのひび、破損を検知するインフラ保全など、「AISIA AD」の仕組みでカバーできる分野は幅広くありる。