4分の3の経営層は何らかの形でデジタル・ビジネスのトレンドを理解している
企業としてデジタル・ビジネスを推進する動きは着実に裾野が広がっているものの、実際にデジタル・ビジネスを実現している企業については、ガートナーの調査でも2017年、2018年ともにほとんど変化がなく、約1割にとどまっている。
デジタル・ビジネスに向けた活動を推進する上で、最新のテクノロジやトレンドが自社のビジネスに及ぼす影響を経営層やビジネス・リーダーが理解していなければ、正しい意思決定を下せず、活動開始に至らないか、活動が途中で頓挫してしまうこともありえる。
デジタル・ビジネスを推進する際に、経営層やビジネス・リーダーの「理解」の壁に突き当たることは多く、2018年にガートナーが実施したWeb調査の結果、日本企業の経営層におけるデジタル・ビジネスへの理解度は、「理解していない」と答えた回答者がおおむね全体の4分の1に上った。一方で、4分の3の経営層は何らかの形でデジタル・ビジネスのトレンドを理解していることが明らかとなった(図1)。
ガートナー リサーチ&アドバイザリ部門 バイス プレジデント, アナリストの鈴木雅喜氏は次のように述べている。
――「この結果は、必ずしも楽観的に見るべきではありません。むしろ、企業がデジタル・ビジネスに向き合う中で、大きな落とし穴がここにあることを示唆しています。4分の3の回答者が理解 していると言っても、その中身が重要です。「分かっている」と言っても、実際には半信半疑で 腹に落ちていない、または適切な投資判断ができるほどには機会とリスクを正しく理解できていない場合が6割を超えている状況が、このデータには表れています。
――この点を軽視すると、 デジタル・ビジネスに向けた活動が途中で頓挫してしまう可能性が高くなります。デジタル・ビ ジネスに向けた活動には経営層が深く関与する必要があり、活動初期だけではなく、アイデアの取得や実証実験など各フェーズで経営層やビジネス・リーダーの理解度を高めていく仕組みが欠かせません。
企業がデジタル・ビジネスへの取り組みを進める動機の1つに、将来の自社のビジネスに対する不安やリスクが挙げられる。実際に、内的・外的要因による将来の自社ビジネスへの懸念から、必要に迫られてデジタル・ビジネスを進めようとする企業も出てきている。
従来あるビジネスをテクノロジで革新することもデジタル・ビジネス
ガートナーでは、AmazonやGoogleなどのテクノロジ・ベンダーが自社の業界に参入し競合となった場合の影響についても尋ねた。その結果、1割強の企業が「自社が破綻する恐れがある」と答え、全体の7割以上の企業がネガティブな影響を受けると認識していることが明らかになった(図2)。
鈴木氏は次のように述べている。
――例えば、社内のビジネス・プロセスや資料すべてを電子化し、営業がモバイル・デバイスやアプリを使いこなし、顧客やサプライヤーとはリアルタイムでつながり、しかもそれぞれから取得できるデータを分析し、常に改善し続けることができる競合が現れたら、自社の未来はどうなるでしょうか。
――しかも、その競合企業に属する社員は 全員がITリテラシに優れているかもしれません。こうした社員たちが日々フラットな組織の中でコラボレーションを経て新たなアイデアを次々に生み出すとすれば、大きな脅威になるでしょう。このシナリオは特定の業界に限ったものではなく、すべての企業が考えるべきリスクになっています。
ガートナーの考えるデジタル・ビジネスは、新たなビジネスを立ち上げることのみならず、従来あるビジネスをテクノロジで革新することも含んでいる。鈴木氏は次のように述べている。
――これまで、インターネットから生まれた新しいビジネスの影響を最も大きく受けてきたのは小売業でした。しかし、新たなテクノロジ群がそこに加わることで、すべての企業が大きな影響を受ける時代に突入しています。デジタル・ビジネスへの取り組みは必ずしも容易なものではありませんが、そこには新たな成長機会も眠っているはずです。今こそすべての企業が取り組みを継続し、ブレークスルーを狙っていくべきです。
この調査は、日本全国の従業員数500人以上のITユーザー企業に勤務する、ITインフラ に関わる企画や製品、ソリューションに対して決裁権がある/関与している、もしくはITインフラストラクチャの戦略に関与しているマネージャー職を対象に実施したもの。
なお、ガートナーは11月12~14日に、「Gartner Symposium/ITxpo 2018」をグランドプリンスホテル新高輪 国際館パミール(港区高輪)で開催する。ガートナーのセッションでは、CIOをはじめとするITリーダーの最重要課題について、13の主要な領域におけるテクノロジ、戦略、リーダーシップに関する最新トレンドや最先端の知見、洞察を提供するという。