1. 日本版の主な調査結果
1) 上場企業において最も優先して着手すべきリスクの種類
日本国内において最も優先して着手すべきリスクの種類は、前々回調査の2016年、前回調査の2017年に引き続き「地震・風水害等、災害の発生」が41.9%で3年連続の最多となった。日本国内では、これまでも数多くの自然災害が発生してきたが、2018年に発生した台風、豪雨、地震といった災害の影響がリスクに対する企業の意識を高める一因となっているようだ。
2位は、2017年調査時には3位であった「人材流出、人材獲得の困難による人材不足」の28.3%、前回2位であった「法令順守違反」は24.6%で3位に順位を下げた。昨今の製品やサービスに関する品質不正を背景に、「製品/サービスの品質チェック体制の不備は20.5%と、前回調査の5位から4位へと順位を上げたほか、「原材料ならびに原油高の高騰」が前回13位から9位になった。
海外拠点においては、「法令順守違反」が23.6%で1位(2017年は2位)となった。国内外を問わず、コンプライアンスに関するリスクは、前回調査でも注目が高まっていることが見て取れたが、2位に入った「子会社に対するガバナンス不全」と併せ、今回の調査でも企業における危機意識の高まりが結果として明らかになった。
日本国内において1位となった「地震・風水害等、災害の発生」は、海外拠点において4位(2017年は6位)となっている。生産拠点等の事業拠点が海外に移る中で、日本企業にとって災害への対策が急務となっている意識が見受けられる。
2) 上場企業における「リスクマネジメントプラン」の拠点別策定状況
国内本社、国内子会社、海外子会社統括拠点、海外子会社、それぞれにおける「リスクマネジメントプラン」の策定状況を聞いたところ、国内本社は、「実施している」61.9%(前回60.6%)、「一部実施している」26.5%(前回28.9%)と割合は若干下がっているものの、両者を合わせて9割近い高水準となった。
国内子会社においても、「実施している」37.4%(前回33.0%)、「一部実施している」27.4%(前回27.5%)と合わせて6割以上の企業がリスクマネジメントプランを策定していることがわかった。
2017年版の結果と対比したところ、国内子会社、海外子会社統括拠点、海外子会社で、「実施している」「一部実施している」の割合の合計が増えた。このことから、リスクマネジメントに対する企業の意識が、高まっており、各拠点におけるリスクマネジメントの意識が高まってきているといえる。
3) 上場企業がこれまでに経験したクライシスの分析
発生年に関わらず、グループ内でこれまでにクライシス経験があるかどうかを聞いたところ、全回答企業の54.2%にあたる233社が「経験あり」と回答した。業種別にみると、陸・海・空運(75%)、小売・流通(64.1%)金融業と不動産業(ともに63.6%)が、他の業種に比べ経験した企業の割合が高いことがわかった。
過去にクライシスを経験した233社を対象に、クライシス発生時の対処ステージ(初動対応~事態沈静化)までの成功要因を3つまでの選択形式で聞いたところ、最も多かったのは「トップのリーダーシップ、トップダウンでの迅速な意思決定がなされた」(51.1%)、つづいて「情報収集・伝達ルートと収集情報の分析・判断のルールが整備されていた」(46.8%)だった。
他方、過去にクライシスを経験していない177社へ対処ステージにおける成功要因と想定される要素を聞いたところ、最も多くの支持を集めたのは「クライシス発生に備えた事前の組織の枠組み」と「クライシス発生に備えた事前の準備ができていること」(ともに57.6%)であり、経験企業で割合の高い結果となった「トップのリーダーシップ、トップダウンでの迅速な意思決定がなされること」は、53.1%の3位にとどまった。
クライシスを経験した企業は組織のリーダーによるリーダーシップの発揮やトップダウンでの迅速な意思決定を成功要因として挙げる一方で、過去にクライシスを経験していない企業はクライシスに備えた組織の枠組みや、規定整備、訓練といった「準備」の要素を重要視する傾向があり、クライシス経験の有無によって意識の違いが現れる結果となった。