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日本におけるエンタプライズ・アプリケーションのアジリティの向上へ――ガートナーが2019年の展望を発表

 デジタル化が進展するにつれて、アプリケーションには、不確実で変化しやすい外部環境に機敏かつ柔軟に(アジリティをもって)対応し、ビジネス価値を提供することが求められている。しかし、既存アプリケーションのレガシー化やサイロ化、あるいは人材の高齢化や不足といった状況が、日本企業にとって環境の変化に機敏かつ柔軟に対応することの阻害要因となっている。

 ガートナーは、日本企業に求められているのは、そのような阻害要因を取り払い、アプリケーションやプラクティスを継続的に進化させ、顧客・取引先・従業員のエクスペリエンスの強化とアジリティの向上を図りながら、新たなビジネス価値を創出していくことだとしている。

アプリケーションのアジリティ向上に向けて知っておくべき予測

 ■2022年にかけて、SAP S/4HANAの人材不足が続き、大規模プロジェクトの過半数ではパートナー候補の1社以上から提案を辞退される

 SAP Business Suiteの標準保守期間が2025年に終了する、いわゆる「2025年問題」を見据えて、SAP ERPユーザーがSAP S/4HANAへの移行を検討・計画し始めている。複数の拠点、業務領域をカバーする大規模プロジェクトは、計画から本稼働まで複数年にわたることが多く、検討を先延ばしにすると、2025年の期限ぎりぎりになる恐れもある。

 SAPの導入プロジェクトは需要が多く、これまでも人材不足の傾向がみられたが、特に新製品であるSAP S/4HANAの知見・経験を持つ人材が逼迫している。2018年にガートナーの顧客から寄せられた相談では、複数の候補に提案要請書を提示したものの、一部から提案を辞退されたケースが見られた。

 今後、同様のプロジェクトは増えていくと見込まれることから、2022年にかけて、大規模プロジェクトの過半数が、パートナー候補の1社以上からの提案辞退を経験すると、ガートナーは予測している。

 ■2022年まで、日本企業の6割程度が、既存アプリケーションのアジリティの向上を目指してAPI化による改修を試みるが、目標を達成できる企業はそのうちの1割にも満たない

 日本企業の大多数においてデジタル・ビジネスへの挑戦が進む中、既存アプリケーションが変化に対応する上で柔軟性やデリバリの迅速性に欠けることが、喫緊の課題として浮上している。これを解決するために、既存アプリケーションのAPI化を念頭に置いた改修の検討や取り組みが活発化している。

 日本企業では、APIについて、外部と内部の接続やビジネス・デリバリを迅速化することへの期待が高いものの、ビジネスモデルやAPI関連テクノロジのスキルセットが不足している点が課題となり、その適用は一部にとどまっている。

 また、アプリケーションの接続する対象が多様化し、その範囲も拡大する中で、接続に関わるIT部門のリソースの欠如が深刻化している。その結果、多くの日本企業では、既存アプリケーションのアジリティの向上が思うように進まず、2022年まで、日本企業の6割程度がAPI化による改修を試みるものの、目標を達成できる企業はそのうちの1割にも満たないと、ガートナーは予測している。

 ■2022年までに、大企業の80%が革新レイヤのアプリケーション開発にアジャイル型開発を採用するが、差別化・記録レイヤのアプリケーションにまでアジャイル型開発を採用し、定着させる大企業は10%に満たない

 ガートナーが調査した結果、日本国内の従業員数2,000人以上の大企業では、アジャイル型開発を「採用中」または「採用予定あり」と答えた割合が70%近くに達し、その関心の高さがうかがえる。アジャイル型開発について、ガートナーが提唱するペース・レイヤの観点から見ると、この方法論は革新レイヤで実践されやすいといえる。

 なぜなら、革新レイヤではアイデアを早期に形にすることから、この点がアジャイル型開発の目的としてプロジェクト関係者の理解を得やすく、実際に有効だからだ。多くの大企業がデジタル・ビジネスの文脈で新しいサービスを創造する場合、デザイン・シンキングの手法と併せてアジャイル型の手法が採用されるケースも珍しくない。

 一方、差別化・記録レイヤに当たる、基幹系と呼ばれる業務アプリケーションの領域では、ウォーターフォール型と比べて「より早く」「より安く」開発できることがアジャイル型開発に期待される場合が多くなる。

 しかし、アジャイル型開発が実際には「思ったほど早くなかった」「思ったほど安くなかった」と評され、プロジェクトとして成功しても、その後はなかなか社内に広がらない状況に陥ることが少なくない。

 差別化・記録レイヤへのアジャイル型開発の浸透を図るには、企業全体でアジャイル型開発の特徴(変化への機敏な対応)を理解し、その採用目的を共有する必要がある。しかし、そこに至るまでにはまだ時間がかかるとガートナーでは予測している。

 ■2023年を迎えてもなお、日本の大企業における基幹系システムの80%が商用のリレーショナル・データベース管理システム(RDBMS)を使い、オンプレミスで運用し続ける

 ガートナーが日本企業に対して行っている調査からは、ERP、その中でも汎用化しやすい業務を除いた基幹系システムにおけるクラウドの採用が進んでいないことが明らかになっている。同様のことが、基幹系システムに利用されるRDBMSにも当てはまる。

 ライセンスや保守にかかる費用を主な理由として、データベース管理システムを商用からオープンソースに変更したいと考える企業は多いものの、移行にかかる費用や障害発生時の対応に関するリスクを考えると実施できない、という企業が圧倒的多数を占めている。

 ■2022年末まで、臨機応変なデータ分析を行う上で最も利用される分析ツールはExcelであり続ける

 従来型のビジネス・インテリジェンス(BI)では、IT部門がユーザーの要望に合わせてデータを準備し、レポートやダッシュボードを提供するというアプローチが取られてきた。日々の業務で必ず確認すべきデータは、このようなBIによる恩恵を受けてきたが、当初の業務要件から外れた切り口でデータを確認・分析するには、データを抽出し、Excelで加工する必要がある。

 Excelを利用したデータ分析は、手軽に始められる一方で、多くの労力を要する、ミスが発生した場合の発見が難しいなど、さまざまな弊害も及ぼす。これらの問題が、テクノロジの進化によって今後4年程度で解消されることはなく、Excelを利用したビジネス・ユーザーによるデータ分析を今のまま放置すると、適正なビジネス推進が阻害される恐れがある。

 

 なお、ガートナーは3月12日(火)・13日(水)に、東京コンファレンスセンター・品川(東京都港区)において「ガートナー エンタプライズ・アプリケーション戦略&アプリケーション・アーキテクチャ サミット 2019」を開催する。

 サミットでは、「アプリケーション戦略をネクスト・ステージへ ~ビジネスの変革と成長を牽引せよ~」をテーマに、アプリケーション戦略とアプリケーション・アーキテクチャを刷新し、デジタル・ビジネス・テクノロジ・プラットフォームの構築を通して企業の変革と成長を実現するためのヒントを提供するという。

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