5Gによって大容量データのクラウド送信のハードルが下がる
5Gでは、高速大容量、超高信頼低遅延、多数端末接続などの実現が期待されている。中でも、4G(LTE)からの最も大きな進化の1つがアップリンク(上り)の高速化であり、これを最も生かすことができる産業分野の用途として、高精細カメラやイメージセンサーで取得した画像/映像データのアップロードが挙げられる。
5Gによってこのような大容量データのクラウド送信のハードルが下がることで、データ分析/活用のさらなる高度化が期待される。より具体的には、(1)4K/8K高精細映像コンテンツのリアルタイム配信、(2)機械学習による画像認識、(3)3Dモデリングによる新たな価値提供のユースケースにおいて、5Gの活用が進むとIDCでは分析している。
ただし、5Gの本格普及には、通信モジュールの低価格化や基地局の配備で、サービス提供開始から数年を要すると考えられる。また、企業などにおいて5Gの需要が増加するには、解像度の高い画像/映像アプリケーションの利用拡大や、センサーで取得した画像をAI(Artificial Intelligence)で分析するなどのイノベーションの進展が必要となる。
「高解像画像/映像を活用し先進的な取り組みを行う企業で5Gの導入が速く進む」
IDCでは、早期に5Gの導入が進む産業分野の条件として、(1) 生産性を高めるための設備投資に積極的である、(2) 画像/映像活用の取り組みが成熟している、(3) 特定企業の管理責任下で変革に取り組むことができる、の3つを挙げている。
(1) については、製造業における製品検査のためのマシンビジョンを始め、すでにイメージセンサーを活用した生産性向上や自動化に投資をしてきた産業分野の企業が、さらなる生産性向上に向けて5GやAIなどが積極的に導入すると予測している。
(2) については、イベントのリアルタイム中継、パブリックビューイング、高精細VR(Virtual Reality)コンテンツ配信など、新たな映像価値提供への取り組みが進むと考えられる。
(3) については、5Gは今後、車両、ロボット、ドローンなど自律移動する機器に多く搭載されるが、これらの自律移動機器の普及は、その安全性に関する法制度整備の影響を受けると分析している。
5Gでは、全国への基地局の面的展開に加えて、イベント会場や企業構内などその場の需要に応じたスポット展開も進むと予測される。後者については、MNO(Mobile Network Operator)による5G通信サービスと、MNO以外による「ローカル5G」(エリア限定免許による5G)の構築/運用が競合するケースも多いとIDCでは予測している。
IDC Japan コミュニケーションズ リサーチマネージャーの小野陽子氏は、「5Gに対するニーズは、産業や場所によって大きく異なる。高解像画像/映像を活用し先進的な取り組みを行う企業で5Gの導入が速く進む。MNOもローカル5G提供事業者も、このような先進企業を5Gの初期のターゲットに含めるべきである」と分析している。
今回の発表は、IDCが発行した「2019年 国内産業分野向け5G市場動向分析:5Gが加速する4K/8K高精細映像の産業応用」にその詳細が報告されている。