SAPは5月11日から13日(米現地時間)にかけて、米国・フロリダ州オーランドでグローバル年次イベント「SAP Sapphire 2026」を開催した。
AIエージェントへのビジネスコンテキスト提供を強化
5月12日の基調講演の冒頭、クリスチャン・クライン氏(SAP Chief Executive Officer)は「Autonomous Enterprise(自律型エンタープライズ)」という新しいビジョンを示した。
日常生活とビジネスで、AIの精度に求められる水準は異なる。企業の基幹業務にAIエージェントを適用するには、80%の精度は十分ではない。クライン氏は「AIエージェントは正確で信頼性が高く、コンプライアンスに準拠した結果を提供しなくてはならない」とした。企業がこのビジョンを実現できるよう、SAPは大きく3つの構成要素について発表を行った。
1つ目がSAP Business AI Platformである。その構成要素は、AIエージェント構築のための「1. ビルド(Build)」、AIエージェントの推論の精度を高めるための「2. 文脈の付加と推論(Contextualize & Reason)」、ユーザーがAIエージェントのガバナンスを意識することなく利用できるようにするための「3. ガバナンス(Govern)」である。
2つ目がSAP Knowledge Graph。これはAIエージェントに、ビジネスドメインの詳細な知識を提供する上でも重要である。AIエージェントに、よりリッチなコンテキストを提供するため、SAP Domain Modelsも導入した。クライン氏は、コンテキストレイヤーの強化で、「AIエージェントが正しいプロセスとデータを見つけるための羅針盤と地図を提供できる」と語った。また、企業のテクノロジースタックがSAPアプリケーションだけではないことを踏まえると、AIエージェントにSAP以外のデータを理解してもらう必要がある。そこでSAPは、SAP Business Data Cloudをコンテキストレイヤーに組み込み、SAPと“SAP以外”を横断する単一のセマンティックデータレイヤーを構築した。
SAP Autonomous Suiteを提供開始
Autonomous Enterpriseを実現するための3つ目の要素が、企業の基幹業務オペレーションの実行を支えるSAP Autonomous Suiteになる。これはSAP Business AI Platform上に構築したビジネスアプリケーションスイートで、これまでの製品が「System of Execution(実行のためのシステム)」だとすると、新しいAutonomous Suiteは自律型エンタープライズに向けての進化を意図したものになる。クライン氏が示したAutonomous Suiteの特徴は大きく5つある。
第一に役割中心(Role-Centric)である。企業内のさまざまなペルソナに応じてJoule Assistantが提供される。第二に成果ベース(Outcome-Based)である。AIエージェントは、ユーザーが実現したいことの意図を理解し、System of Executionを操作する。第三にトレーサビリティと監査可能性(Traceable & Auditable)を提供する。AIエージェントが実行したすべてのアクションをモニタリングし、企業が安心してAIエージェントを利用できるようにする。第四が設計段階から拡張性を確保していること(Extensibility by Design)である。企業およびエコシステムパートナーが、AIエージェントの追加やスキルの拡張を自由にできるようにした。最後がオープンであること(Open by Principle)だ。オーケストレーションレイヤーが、SAPエージェントと非SAPエージェントが連携できるように支援する。
なお、Autonomous Suiteはファイナンス、調達、サプライチェーンマネジメント、HCM(Human Capital Management)、そして顧客体験(CX)の5つのドメインで横断的に提供される。さらに、SAPが長年培ってきた業界知識を基に「Industry AI」も提供。業界固有のプロセスロジック、データモデル、規制要件を組み込んだ「Adaptive Production」「Commodity Management」「Asset Management」「Regulated Manufacturing」「Revenue Growth Management」「Unified Commerce」「Project Delivery」の7つのドメインソリューションの提供を予定している。
まったく新しいユーザー体験も提供開始
また、新しいUIとしてSAP Joule Workが発表になった。昨今、「ゼロUI」や「ヘッドレス」というアイデアも知られるようになってきたところに、SAPはユーザーとアプリケーションとのインタラクション方法を再構築。ムハンマド・アラム氏(SAP Product and Engineering)は、SAPでの呼び方は「ノーアプリ(No-Apps)体験」であると説明した。
ノーアプリに似た考え方に「アプリレス(App-less)体験」がある。これが直接アプリケーションを立ち上げることなく対話できるようにするものであるのに対し、ノーアプリ体験はアプリケーションを経由することなく、ユーザーに必要な機能を提供する点で異なる。使い捨てにしても、繰り返し使ってもよい。従来通り、使い慣れた環境からアプリケーションを使ってもよい。ユーザー企業が快適な利用環境をゼロから構築することなく実現できるようにした。
また、Joule WorkのSpacesは、AIエージェントがユーザーと連携する場所も提供してくれる。ユーザーは実現したい成果をJouleに伝えるだけで、アプリケーションを切り替えることなく目的のコンテンツに直接アクセスし、意思決定を確認し、ワークフローを完結可能だ。ここでのコンテンツは、定型業務を自動的に実行する、あるいは必要に応じてビジネスインサイトを能動的に提供する、といった具合にトランザクションとアナリティクスの両方が考えられる。コントロールは常に人間のユーザー側にある。さらに、SAPシステムだけでなく、非SAPシステムにも対応する。Spacesに加え、会話型体験を提供するConversations、開発環境を提供するJoule Studio 2.0の3つをまとめて提供するのが「Joule Work」になる。
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冨永 裕子(トミナガ ユウコ)
IT調査会社(ITR、IDC Japan)で、エンタープライズIT分野におけるソフトウエアの調査プロジェクトを担当する。その傍らITコンサルタントとして、ユーザー企業を対象としたITマネジメント領域を中心としたコンサルティングプロジェクトを経験。現在はフリーランスのITアナリスト兼ITコンサルタン...
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