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競争力は“働くほど育つ”コンテキスト──アトラシアンがTeam Tour Tokyoで示したもの

アトラシアン 「Team on Tour Tokyo」レポート

アトラシアン マーケティング統括マネージャー 朝岡恵里子氏/同 Head of Product, Enterprise レイ・ウォン氏

 アトラシアンは2026年6月、東京で年次カンファレンス「Team Tour Tokyo」を開催した。日本法人の設立13周年に合わせた基調講演で同社が前面に掲げたのは、「Intelligence × Context(インテリジェンス×コンテキスト)」という方程式である。AIモデルの性能はコモディティ化し、勝敗を分けるのは組織固有のコンテキストだ──こう語る企業はいま少なくない。各社が同じ言葉を掲げるなかで、アトラシアンのコンテキストは何が違うのか。基調講演、続くCxO座談会、そして報道関係者向けの製品説明会を通じて同社が繰り返し示したのは、「働くほどコンテキストが自律的に積み上がる」という一点だった。

モデルはもう競争差にならない

 「あらゆるチームの可能性を解き放つ」という創業以来のミッションが、いまこれまで以上に切実になっている、とアトラシアン マーケティング統括マネージャー 朝岡恵里子氏は冒頭に語った。AIネイティブな組織では、実行プロセスをAIエージェントが担い、人間は目的を定めて判断を下す仕事に集中する。「人間以外の労働力が組織に入ってきた、ということだ」と朝岡氏は話す。

 その世界で何が競争力を決めるのか。朝岡氏は「AIモデルがもたらす知識や推論はもはやコモディティ。誰もが同じモデルを使える以上、モデルそのものは持続的な差別化要因にはならない」と語り、「差がつくのはコンテキストだ」と続ける。

「過去の意思決定の背景、プロジェクトの定義、組織独自のワークフロー。これら組織の記憶こそが、他社が真似できない唯一無二の資産になる」(朝岡氏)

 アトラシアンはこのコンテキストを、仕事・人・知識・目標のつながりと履歴を保存する共通データモデル「Teamwork Graph」として可視化する。

アトラシアンのコンテキストは「働くほど自律的に育つ」

 とはいえ、コンテキストという言葉は今や多くのITベンダーが掲げる業界共通のアジェンダともいえる。そのなかでアトラシアンならではの違いは、「自律的に蓄積されること」にあるという。

 製品開発を統括するレイ・ウォン(RAE WANG)氏は、「他社の多くは“情報を集めて後から推論する”という手法をとっている」と指摘する。メール、チャット、議事録、ファイルなど業務の周辺で発生する記録を後から集め、テキストの類似性をもとに関係性を推論する──つまり、分散した情報の断片を検索し、つなぎ合わせて文脈を組み立てようとしているが、「アトラシアンは逆だ」とウォン氏は言う。

 「仕事をすること自体からコンテキストが生まれる。Jiraでチケットを動かす、Confluenceでページを書く、プルリクエストを出す、目標を更新する。こうした業務の過程で、誰が何に取り組み、何と何が依存し合っているかが自動でグラフに積み上がる」(ウォン氏)

 グラフを作るための追加作業はゼロで、仕事を進めるほど構造化された関係性が複利的に積み上がる、というのが同社の主張だ。

 積み上がるのは静的なドキュメントではなく、常に動き続けるコンテキストだとウォン氏は強調する。「なぜこの判断をしたのかは、SalesforceのようなシステムではなくTeamsのチャットやZoom会議の文字起こしの中にあることが多い」。Teamwork Graphはこうした会話の履歴まで取り込み、変更があってから10分以内に反映する。仕事の中で起きていることを、その履歴ごと常に最新の状態に束ね直す「生きた仕事の地図」だという。

 この自律蓄積の効き目は数値にも表れた。Claude Codeに同一の計画立案タスクを指示し、Teamwork Graphに接続したものと接続しないものを比べた同社の実証実験では、接続した側の回答品質が44%高く、トークンコストは48%低かったという。「変数は手がかりの有無だけだ」とウォン氏は述べた。日々の仕事から積み上がった文脈があるかないかだけで、同じモデルの働きがこれだけ変わるという主張である。

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CxO座談会──「コンテキスト」へのモヤモヤから

(左より)アトラシアン株式会社 AS/CSMマネージャー 新納健氏/KDDIアジャイル開発センター株式会社 代表取締役社長 CEO 木暮圭一氏/株式会社みずほフィナンシャルグループ 執行役員 グループ副CIO 相原寛史氏/株式会社 LIXIL 常務役 Digital 部門担当 岩﨑磨氏/株式会社インプレス編集主幹 IT Leadersプロデューサー 田口潤氏(司会)

 基調講演に続くCxO座談会「AIを組織の力に変える経営判断」は、「Human-AI Collaboration at Scale(組織規模での人とAIの協調)」をテーマに据えた。登壇した4者がコンテキストをどう言い表したかは表現こそ違ったが、「単なる文脈ではなく、組織に積み重なった生きた記憶」という点で重なっていく。その重なりが浮かび上がる流れが、この座談会の読みどころだった。

 司会のインプレス・田口潤氏は、まず会場の参加者に「基調講演をどう受け止めたか」を問いかけ、挙手で反応を募った。「未来はここにあると確信した」と手を挙げた人は一定数いたが、「おおよそ理解できたが、モヤモヤが残る」と感じた人が最も多かった。田口氏自身も、コンテキストを「文脈」と訳すことへの違和感を口にする。この違和感を起点に、パネリストへ「コンテキストとは何か」を問うていった。

 2013年にJiraとConfluenceを全社導入し、いまでは企画・営業・人事まで使うというLIXILの岩﨑磨氏は、コンテキストを「実践知」と表現した。「単なる情報やデータではなく、自分たちの経験をAIが使える形にまでしたもの」と岩﨑氏は語る。

 この4月に国内の全開発案件をJira Cloudへ移行し、IT人材1万人規模で開発を進めるみずほフィナンシャルグループの相原寛史氏は、コンテキストを「ナレッジに経験(エクスペリエンス)を加えたもの」と捉える。「なぜこの機能をこう実装したのか、過去にどんな障害があり、どう対策したのかを答えられるようにしたものだ」と述べた。

 2013年から始まったアジャイル開発の取り組みにJiraを利用しているKDDIアジャイル開発センターの木暮圭一氏は「ある種のビッグデータともいえる。ガバナンスも踏まえてどう使うかの定義も含めてつないだもの」と、仕事の動線に溶け込むアプローチに期待を寄せた。

 アトラシアン社内のユーザーの立場からは、同社の新納健氏がコンテキストを「背景(バックグラウンド)」と捉えた。「聞き手がマネージャーか新人か営業かで必要な回答は変わる。インテリジェンス(AIモデル)に背景を掛け合わせて初めて、その人にとっての正解になる」と語る。

 実践知、ナレッジと経験、ビッグデータ、背景──表現はそれぞれ違うが、4者が語ったコンテキストは「組織に積み重なった生きた経験」という一点で重なっていた。その記憶を土台に人とAIが組織規模で協力していく。座談会のテーマ「Human-AI Collaboration at Scale」が、現場の言葉で語り直された格好だ。

Jiraを「エージェントの管制塔」に

 講演後には報道関係者向けの製品説明会が開かれ、朝岡氏による補足とエグゼクティブプロダクトマーケティングストラテジストの渡辺隆氏によるデモが行われた。ここで示されたのは、前半で語られた「自律蓄積」と「管制塔」という主張を、実際の画面で裏づける場面だった。

 渡辺氏のデモでは、参照元を指定せずプロンプトだけを渡しても、AIが重要なコンテキスト文書を自ら読み込んで営業キックオフ資料を組み上げる様子が示された。資料を探して指定する手間をかけずとも、日々の仕事から積み上がった文脈が呼び出される──自律蓄積が効くとはこういうことだ、という実演である。

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 「管制塔」を体現するのはJiraの画面だ。カンバンの受付に複数のAIエージェントを並べ、資料作成やプレゼン生成を振り分ける。エージェントの作業も人と同じボードで追えるようになり、誰がいつどのエージェントに何を依頼したかがログに残る。要所で人が確認するヒューマン・イン・ザ・ループを挟む設計だ。開発向けの計画支援では、AIがコードとグラフを読み、現行アーキテクチャを踏まえた改善案まで含む計画を提示する。承認後はClaude Codeなどへタスクを割り当て、進捗がボード上で見える。AIコーディングだけでは開発全体の生産性は頭打ちになりうる──コードの前後にある計画やレビューまで含めてAIを組み込む、というのがここでの狙いだ。

 ガートナーは2028年までにエージェント型AIを組み込むプロジェクトの4割超が、調整の複雑さゆえに失敗する見通しを示す。渡辺氏は「20年以上、誰が何をしたかをワークフローで記録してきた。その構造はマルチエージェントをまとめて動かす要件と重なる」と語り、優位性をTeamwork Graphオープンな設計管制塔としてのJiraの3点に置く。RAG(Retrieval-Augmented Generation:検索拡張生成)を意識して組み立てなくても、日々の仕事からグラフが自然に育つ点が強みだ、とも説明した。無理な乗り換えを迫るのではなく、Jiraで外部ツールへリンクを貼るだけでも関係性は積み上がる──そうした方針も語られた。渡辺氏は、エージェントに任せても最終判断は人が下し、監督者としての役割にシフトしていく、とデモの含意を補足した。

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この記事の著者

京部康男 (編集部)(キョウベヤスオ)

ライター兼エディター。翔泳社EnterpriseZine/AIdiverには業務委託として関わる。翔泳社在籍時には各種イベントの立ち上げやメディア、書籍、イベントに関わってきた。現在はフリーランスとして、エンタープライズIT、行政情報IT関連、企業のWeb記事作成、企業出版支援などを行う。Mail ...

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