EUにおけるセキュリティ最大手の一角であるESETの日本法人イーセットジャパンは、日本の中小企業(以下、SMB)におけるサイバーセキュリティの実態について、記者向けに説明会を開催した。
【左】イーセットジャパン株式会社 代表取締役社長 永野智氏
【右】同社 シニアセキュリティモニタリングアナリスト 佐島隆博氏
今回発表された調査レポート『SMBサイバーセキュリティレディネス指標 2026年版』では、世界13ヵ国・4,400社のSMBを対象に調査を実施。日本からも500社が参加した。なお、日本版の公開は今回が初となる。

AI時代の脅威を心配する前に、基本的な対策はできているか?
まず浮き彫りとなったのは、日本企業の多くがサイバー脅威は認識していながらも、現実とのギャップがある点だ。過去12ヵ月間で、すでに47%の日本企業がサイバーインシデントを経験。また、今後1年間のサイバー攻撃を懸念している企業も60%以上にのぼる。しかし、さらに調査結果を見てみると、企業が懸念しているリスクと、実際に被害に遭った企業の侵害原因の実態が大きく異なる。

昨今の脅威動向やテクノロジーの進化を見ていると、防御側としては、どうしてもランサムウェアやAIといった最新の脅威に目がいきがちだ。しかし実態は、以前から指摘されてきたような脆弱性、ヒューマンエラー、基礎対策の欠如といったものが多くの被害の原因となっている。これを受けて、永野智氏(日本法人代表)は「AI時代でも基本的な対策の重要性は変わらない」と指摘する。

新たな防御手法やAI機能が次々と登場しているが、それ以前に基本的な対策が未だできていない企業は、特にSMBでは珍しくない。これまでは基礎が疎かでも被害に遭わず済んだかもしれないが、それは単に運が良かっただけだと認識すべきだろう。今後、AIで無停止化・大規模化・高速化を遂げたサイバー攻撃の侵入を容易に許してしまうのは時間の問題かもしれない。ましてや今は、大企業を標的とする攻撃も、脆弱な関連会社や取引先・発注先などを経由して侵入を試みる時代だ。
結局「人材・時間・予算」が足りない
続いて、「日本企業は他国に比べて確信がない」という調査結果が示された。セキュリティ対策が疎かだから自信がないのではなく、対策を講じても「これで守れている」という確信が持てないのが実態のようだ。この背景には、そもそも「守れているかどうか判断できるだけの可視化と確信が持てていない」という課題があると永野氏。皆さんの組織ではいかがだろうか。

人材不足と予算不足、業務負荷の問題は相変わらずだ。多くのIT担当者、セキュリティ担当者が「何をやるべきか」はそれなりに分かっているが、実行するとなると人材・時間・予算という現実が立ちはだかる。

もちろん、経営層のセキュリティに対する理解度は企業ごとに差があるだろうが、仮に理解があったとしても、潤沢なリソースを用意できないのがSMBのつらいところだ。そんな背景から、ESETではフルマネージドで24時間365日、サイバー攻撃の検知から対応までを専門チームが支援するMDRの引き合いが急増しているという。
ICC 赤根智子所長への制裁から学ぶ「主権」の重要性
AI for Security/Security for AIへの関心は、SMBでもかなり高い。むしろ、人材不足に悩まされていたSMBだからこそ、AIに活路を求めている側面もあるかもしれない。ポリシー整備などの社内環境整備には、まだ課題が多そうではあるが……。

もちろん、ESETもこの期待に対し、AI時代の最新機能と製品で応える構えだ。同社はChatGPTが登場する以前から、のちにLLMの基礎となったTransformerモデルを導入するなど、AIブームよりも前から続くAI研究の歴史を持つ。

加えて、AIエージェント時代に同社が重視するのが、AI主権(ソブランティ)の確保だ。ここでいうAI主権とは、データ・AIモデル・判断をすべて自分たちのコントロール下に置くことを意味する。

主権の重要性を裏付ける実例として永野氏は、現在米国のトランプ政権が発動している、ICC(国際刑事裁判所) 赤根智子所長への制裁を挙げる。日本人が制裁対象となったことで我が国で一気に関心が高まっているが、実はそれ以前から、ESETが本拠地とするEUでは、ICC関係者のメールアドレスやクレジットカードが米国によって停止される事態が起こっていた。これを受けてEUでは、デジタル主権の議論が急拡大したという。皆さんが利用するクラウドサービスやデジタルソリューションの最終的なコントロール権限は、どこにあるだろうか。ウクライナでのスターリンクのように、いつ停止のリスクにさらされてもおかしくないことを認識する必要がある。
このリスクを克服すべく、ESETは独自のAIモデル、独自テクノロジー、独自教育、インテリジェンスへの投資を強化している。2026年5月には、ベルリンにてAI分野への4000万ユーロの追加投資計画も発表した。

最後に永野氏は、日本企業が直面する課題と5つの提言を送った。
- 基本徹底:アカウント・脆弱性管理、パッチ適用、継続的監視などの基本対策を確実に実践せよ
- 現状把握:資産・脆弱性・脅威の状況を正確に把握し、継続的な評価体制を整えよ
- 外部専門家の活用:SMBは、外部の弁護士や税理士を頼るのと同じように、セキュリティも自社で抱え込まず外部の専門家や知見を活用せよ
- 実践的対策:フィッシング訓練やバックアップをはじめ、事業継続のためのレジリエンス施策を進めよ
- 主権視点での対策導入:「誰がデータやテクノロジーをコントロールしているのか」という主権の視点を持て
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名須川 楓太(編集部)(ナスカワ フウタ)
サイバーセキュリティとAI(人工知能)関連を中心に、ソフトウェア/ハードウェアを問わず国内・海外の最新技術やルールメイキング動向を取材。そのほか、DX推進、企業財務・IRなどのコーポレート領域でも情報を発信。武蔵大学 経済学部 経済学科 卒業。
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