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Azure PaaSでSoEを構築し既存システムと連携!アサヒビールが選択した低コストかつ低リスクなモダナイゼーション手法とは?

edited by Operation Online   2018/07/19 06:00

 ITシステムを改善して業務効率をさらに向上させたいのに、既存システムの柔軟性の欠如がその阻害要因になっているというケースは、決して少なくないはずだ。しかし既存システムをリプレースするのはコスト負担が大きく、業務に与える影響も大きい。このようなジレンマを解決する手段として有効なのが、既存システムを残したままその上にSoE(System of Engagement)を載せてしまい、モダナイゼーションを実現するという手法である。アサヒビール株式会社では2017年11月~2018年3月にかけて、この手法を営業基幹システムに適用し、大きな成果を挙げている。ここではこのプロジェクトの関係者に話を伺い、プロジェクトの背景や具体的なアプローチ、成果、今後の展望などを紹介する。

機能毎にサイロ化していたアサヒビールの営業基幹システム

 日本を代表する大手ビールメーカーの1社として知られるアサヒビール。2011年7月には持株会社制へと移行しており、現在はアサヒグループホールディング株式会社傘下の中核企業として事業を展開している。取扱商品はビール、発泡酒、新ジャンルをはじめ、洋酒、ワイン、RTD (缶チューハイや缶ハイボール) 、焼酎、アルコールテイスト清涼飲料など幅広い。これによって多様化する消費者のライフスタイルに応え続けている。

 その営業形態について、アサヒビール 業務用統括部長 理事の福岡 修司氏は次のように説明する。「主な販路は、スーパーやコンビニなど家庭用商品を扱う量販店様と、業務用商品を扱う業務用酒販店様や飲食店様に分かれます。私たちが所属するのは業務用営業組織であり、営業担当者は担当市場の卸店様や業務用酒販店様、飲食店様の情報などを収集し、お客様へのお役立ち、ご盛業への支援などを行うなど、多岐にわたる業務を遂行しています」。

アサヒビール株式会社 業務用統括部長 理事 福岡 修司氏

 これらの業務を支援するため、同社は2000年頃から機能別に、営業基幹システムを順次構築。2009年頃には約10種類のシステムを整備し、これによってほぼすべての営業業務をカバーできるようになったという。しかしこのような多岐にわたるシステムの存在は、新たな問題も生み出すことになったと、アサヒビール 業務用統括部 担当副部長の宮城 楽氏は振り返る。

アサヒビール株式会社 業務用統括部 担当副部長 宮城 楽氏

 「各システムがそれぞれ分かれていたため、営業担当者が該当するシステムを探したり、どのシステムに必要な情報を入力するのかなど、悩んでしまうことが少なくありませんでした。営業担当者のスキルにもよりますが、1店の飲食店に関わる業務を行うのに、数時間かかるケースも珍しくありませんでした」

 また「同じ情報を複数システムに重複入力する必要があり、途中で入力を間違えてしまうこともありました」と語るのは、アサヒビール 業務用統括部 担当課長の水戸 雅文氏。その結果システム間で入力内容に矛盾が生じ、あとで修正しなければならないことも多かったという。

アサヒビール株式会社 業務用統括部 担当課長 水戸 雅文氏

 さらに、社外で入力作業を行う場合には、毎回PCを携帯電話に接続して社内システムにアクセスする必要があり、これも営業担当者の作業負担を増大させていた。アサヒビールでは2017年にスマートフォンを導入し、メール確認などに利用するようになったこともあり、営業基幹システムをスマートフォンで使いたいという要望も高まっていたという。

システム全体を統合するためAzure PaaSを活用したSoEを構築

 これらの問題を解決するためアサヒビールは2017年4月、「複数の営業基幹システムをSoEによって統合する」という取り組みに着手する。

 「当初はSaaSによって営業システム全体を刷新することも検討しましたが、既存システムからSaaSへと一気に置き換えてしまうのは簡単ではないと感じました」と語るのは、アサヒグループの経営共通基盤を担うアサヒプロマネジメントで、業務システム部 主任を務める塙 圭介氏。営業担当者の負担とリスクを最小化しながらシステムを統合するには、既存システムを活かしながら、新技術への対応が可能なプラットフォームを実現すべきという結論に至ったという。

アサヒプロマネジメント株式会社 業務システム部 主任 業務グループ 塙 圭介氏

 そのような検討の中で参考になったのが、4万人のユーザーが利用するレガシーシステムをMicrosoft AzureのPaaS機能でモダナイゼーションした事例である。この事例を知ったとき「アサヒビールの営業基幹システムも同じアプローチで統合できるはず」と確信したと語る。

 2017年10月にはAzureの採用を正式決定。その翌月から開発作業がスタートする。構築されたシステムは下図に示すとおり。Web Appsによるユーザー インターフェイス、キューイングとFunctionsを組み合わせたバッチ処理基盤、Cosmos DBやBLOBストレージによる共通データ基盤などから構成されており、社内システムとはExpress Routeで接続されている。

営業基幹アーキテクチャ構成図[画像クリックで拡大表示]

 「今回のシステム開発ではAzureの幅広いPaaS機能を活用しており、それに合わせて開発手法も従来のウォーターフォール型からアジャイル型へシフトしています」と語るのは、アサヒグループでITソリューションの企画・提案・開発・保守運用を担当する、アサヒビジネスソリューションズ ソリューション本部 開発統括部の塩田 弘毅氏。

 2017年12月には既存システムにREST APIを追加し、これによってAzure上のシステムとの疎結合も実現しているという。「Azureには実にさまざまなサービスが用意されており、これらを組み合わせることで多様な課題を解決できます。また機能選択も柔軟に行うことができ、システムを段階的に成長させることも可能です。これなら既存システムをそのまま活かしながら、最新技術を活用したシステム刷新が実現できると感じました」。

アサヒビジネスソリューションズ株式会社 ソリューション本部 開発統括部 塩田 弘毅氏

 また塩田氏と共に開発に参加した、アサヒビジネスソリューションズ ソリューション本部 開発統括部の小林 和可奈氏は「このようなPaaSを活用した開発は当社としても新しい取り組みであり、アジャイル型の開発スキルを蓄積できました」と述べている。

アサヒビジネスソリューションズ株式会社 ソリューション本部 開発統括部 小林 和可奈氏

入力作業を大幅に効率化、数時間かかっていた業務も数十分で完了可能に

 第一弾の開発が完了したのは2018年3月。開発期間は4か月だった。ここで実現されたのが、Azure上のしくみと既存の契約業務システムとの連携である。これはWeb Apps上のアプリケーションに顧客情報や契約内容を入力することで、既存の料飲店データベースや契約情報データベースに、それらの情報が自動的に格納されるというもの。クライアントとしてはPCのほかスマートフォンも利用でき、稟議に必要な書類をMicrosoft Excelから転送することも可能だ。

 顧客情報で文字入力が必要な項目は、顧客名や電話番号など、最小限に抑えられている。住所は地図アプリで場所を選択するだけで自動的に入力され、GPS機能で現在地を指定するだけでも入力可能。また必要な書類もあらかじめ用意された選択肢を選ぶだけで、自動的に作成されるようになっている。

 「2018年3月から約100名を対象にしたテスト展開を行いましたが、入力が簡単で重複入力も不要になったことをデモを交えながら説明したところ、大きな歓声が上がりました」と水戸氏。稟議書類の作成も、以前は雛形を見つけ出して変更が必要な箇所を営業担当者の手で書き換えていたが、新システムではその必要もなくなった。そのため書類作成のミス発生も必要最低限に抑えられ、社内回覧時に関連部署からストップがかかることもなくなったという。「今まで数時間かかっていた業務がわずか数十分程度で完了するようになりました。スマートフォンでも入力が行えるため、外出先でのちょっとした隙間時間や移動時間も有効に活用できます」

 2018年4月には全国展開を開始。これによって営業担当者の内勤業務が大幅に効率化され、入力内容の抜けや漏れもなくなると期待されている。今回は統合の対象外となった他の既存システムも、今後段階的に統合していく計画だ。次のターゲットとしては、料飲店の詳細情報を管理するシステムや、営業活動記録システムが挙げられている。すべての営業基幹システムの統合は、2019年度末を予定している。

 「このようなシステムを活用して内勤時間を削減することで、営業が本来行うべき得意先回訪や販路拡大、アサヒビールファン化工作に専念できるようになります」と福岡氏。またワークライフバランスや将来の自分の投資など、働き方改革の実現も可能になるだろうという。「効率的かつ効果的な攻めの営業スタイルと、社員が活き活きと働ける組織風土の醸成につながるものと期待しています」。

 アサヒビールが採用したこのようなアプローチは、社内業務の効率化や働き方改革にとどまらず、デジタル変革で新規ビジネスを展開するケースにも適用できるはずだ。SoEを載せてモダナイゼーションを行えば、古いスタイルのシステムも新たな資産へと変貌する。このような手法でシステム刷新を推進する企業は、これからさらに増えていくのではないだろうか。

著者プロフィール

  • EnterpriseZine編集部(エンタープライズジン ヘンシュウブ)

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