通信事業者の「コア」と「新事業」の2方向で支援
ステファン氏は、SAPのテレコム産業のリーダーとして主にアジア全般を統括している。現在はカナダ・バンクーバーに滞在するフランス人。SAPでの通信業界関係のキャリアは長く、米シリコンバレーにも着任していたという。
── SAPでの通信業界への取り組みを教えてください。
ステファン:SAPは元々、ERPのベンダーですが、製造・通信・金融など業種別にソリューションがDNAです。中でも通信業界は、SAPにとって戦略的な業界です。
現在、私はアジア地域の全般を見ていますが、アジアは日本、韓国、中国などの先進的な国と、インドや東南アジアなどの成長市場が混在していて、市場として非常に面白い。特に次世代通信基準の5Gでは日本、韓国がリードしていて、日本は5Gの重要拠点であると考えています。
── SAPの通信事業者への取り組みはどのようなものでしょうか?
ステファン:通信業界への取り組みについては、2つの側面があります。ひとつは通信会社のコア・ビジネス(本業)のデジタル化をおこない効率化するための支援、もうひとつはパートナーという立場で、新しい収益源を作るためのイノベーションを支援することです。
後者の場合には、われわれのコアなDNAとしてあるマルチインダストリの知識・ノウハウが有利な条件になります。たとえば、通信関連の会社が自動車業界、建設業界での新しいビジネスをおこなっていく際に、役に立てるのではないかと思っています。
全社のコア事業の変革については、それぞれの事業のプロセスのデジタル化に即したソリューションを分野別に提供することです。経営分野には、従来のERPを提供するソリューション、さらに社員については、人事関連のソリューション「SuccessFactors」があり、サプライ関連であれば調達の関連のソリューション「Ariba」、交通費・経費精算では「Concur」、営業やマーケティング関連ではカスタマーセントリックのオムニチャネルのソリューション「Hybris」などです。
具体的には、通信特有のサービスをバンドリングするためのマネジメントシステムや、Hybris Billingを用いた課金の際のレーティング、課金、請求、回収、支払い管理をおこなう仕組みなどです。最近ではボーダーフォングループと共同で開発した「SAP Big Data Margin Assurance」というソリューションがあります。これは、SAP HANAをベースに加入者の利用状況や収益性を分析し、料金設定のコントロールをおこなうためのものです。
── 通信業界のソリューションを他の業種にも展開していくのでしょうか?
ステファン:通信業界に限らず、お客様との案件を通じて蓄積した成果を、他業種に展開していくことでソリューションのポートフォリオを増やしていく「コ・イノベーション(Co-Innovation)」を重視しています。
例えば、通信事業者が新しいビジネスを始める時に、流通・小売のソリューションが役に立つときがあります。新しいビジネス開発をおこなう時、こうしたポートフォリオが役立つのです。
アメリカの大手の通信事業者では、流通・小売のソリューションを適用することで、それまで40種類あったサプライチェーンが統合されました。
他にも、コールセンターでの音声応答や、チャットボットによるカスタマー・サポート、ブロックチェーンによるローミングの管理や不正の防止、盗難端末の発見などのソリューションがあり今後、幅広い産業に適用していきます。