女性は迷う だから先駆者の意見が聞きたい
近年ITベンダーのイベントで「Women in Technology」セッションを目にする。多くが女性視点で業界や働くことに関して意見交換する場だ。社会や経済の要請という後押しもあり、昔に比べたら女性が働くことは推奨されてきているものの、現実はそう簡単ではない。実際にIT業界では女性の参加率は低い。どう向き合うか、どう取り組んできたかを当事者同士が語り合うことで、新たな発見やヒントにつなげるのが狙いだ。
女性のキャリア構築にはさまざまな迷いがつきまとう。どれが正解だか、分からなくなるのだ。フェイスブック COO シェリル・サンドバーグ氏が自著「リーン・イン」で働く女性の境遇や心境をうまく説明していた。例えば、男性が働くことは追い風ばかり。つまりほとんど誰も反対しない。しかし女性の場合だと追い風と向かい風の両方がある。働くことを応援する声もあれば、否定的な声もある。家族の意見や家庭の事情があれば、特に強くのしかかる。だから女性は迷うのだ。自分と家族、どちらを優先すべきかと。
親世代との違いもある。人間は幼いころに自我を形成するとともに、生き方の漠然としたイメージも描いていく。そこに親の姿というインプットは大きい。女性にとって母親が働いていればロールモデルがいるので働くことへの抵抗は少なくてすむが、そうでないと未知の世界なので戸惑う時もある。
女性に限らないが、よく女性が抱く「もやもや」、「罪悪感」、「これでいいのか」という迷いは不確かな記憶や感情から発せられるものが多い。それは時に合理的ではなく、簡単に割り切れなくて難しい。そうした迷いに対して、困難をくぐり抜けてきた先駆者の意見は参考になる。
苦手なことでも時間をかければ上達する
マイクロソフトコーポレーション Azure Marketing コーポレートバイスプレジデント ジュリア・ホワイト氏は企業向けクラウドサービスとなるAzureなど難易度の高いITを専門としているものの、実は文系出身。彼女をここまで進ませたのは「好奇心」だそうだ。最近では量子コンピュータに関する論文にも目を通しているという。テクノロジー業界は新しい技術をキャッチアップするのが大変ではあるが、好奇心あふれる人にはエキサイティングな世界だ。
ホワイト氏はde:code 2018では基調講演で堂々と発表していたが、実はかつて人前でプレゼンすることは苦手だった。苦手どころか「本当に怖かった」と言う。リーダーへの道を進むなら人前でのプレゼンスキルは不可欠となるだろう。ホワイト氏は根気強く練習することで苦手を克服したという。
後述するバーディーン氏も同意しながら「シンプルな話です。時間をかければうまくなるのです」と強調した。「継続は力なり」。どんなプロフェッショナルでも、スキルや自信を醸造していくには時間がかかる。逆に言えば時間をかければ確かなものになっていく。信じて続けることが大事だ。
マイクロソフト コーポレーション Developer Division コーポレートバイスプレジデントのジュリア・リウソン氏はエンジニアのなかでも、女性かつアジア人でレアな側面を多く持つ。マイクロソフトでは入社26年目の古参でもある。「マイクロソフトは私の入社時から大きく変わりました」と話す。女性の活用に積極的になり、ダイバーシティ関連の研修も増えた。「最近では“unconscious bias(無意識のバイアス)”も話題になっている」と話す。バイアスについて無意識の領域にまで目が向くということは、それだけバイアスについての理解が進んできたからだろうか。
中国(アジア)とアメリカの両方の文化に接してきたリウソン氏。中国の感覚だと女性が理系やエンジニアに進むことの抵抗は少ないそうだ。逆にアメリカだと中国に比べて「女の子だから、数学なんて得意にならなくていいのに」的な感覚が強いとか。ところが女性の結婚後のキャリアだと、中国のほうは「家庭を優先すべきだから、社会で成功しなくてもいいのに」的な感覚があるそうだ。あくまで比較だが、女性を阻む壁は文化や地域により異なる。広い視野を持てば否定的な意見に翻弄されにくくなるかもしれない。