リーガルテックとは?
2019年を迎えて、平成も残りわずか。新年度、つまりちょうど新しい元号からは、日本の“リーガルテック”が本格的に始動する。
リーガルテックとは、英語版ウィキペディアにもLegal Technology または Legal Techとして掲載されている法律サービスの利便性を向上させる情報テクノロジのことだが、これまで日本では大きな成長が見込める分野とは理解されてこなかった。
というのも、法律情報のハブともいえる裁判所では、膨大な量の情報が交差し蓄積されてはいるものの、そのほとんどは弁護士らが裁判所に持参もしくはFAXして、2穴パンチでヒモ綴じされた紙媒体としてであって、弁護士や紛争当事者の手元にも同様の紙媒体が保存されるのが現状だからだ。
つまり、法律分野では紙媒体こそが正式な文書とされていて、デジタル化を前提とするテクノロジの支援を阻む構造があったのである。
https://en.wikipedia.org/wiki/Legal_technology
しかし、閣議決定を経て、新年度からは裁判手続IT化のための法整備等が始まる。
裁判所とそれを利用する弁護士・企業等における法律サービスがIT化されることで、リーガル分野をテック化するためのビジネス基盤が国家規模で整って行くことになる。
現状、法律分野にテクノロジを導入したサービスとしては、ネットでの弁護士紹介、登記申請書や定型的な契約書といった法律文書の作成支援、チャットによる法律相談などがあるが(2005年 弁護士ドットコム https://www.bengo4.com/、2017年 ホームズhttps://www.holmes-cloud.com/、2015年 弁護士トークhttps://bengoshi109.com/など)、リーガルテックは世界的にも後発のテック産業であり、法律にITを導入することでどのような新しいビジネスが生まれるのか、全体像はまだ見えてこない。
リーガルテックの夜明け
そこで、リーガルテックの具体的なイメージを求めて、これまでの経緯を振り返ってみよう。
情報テクノロジ産業の発達はPCが普及してゆく1970年代以降だから、半世紀に満たない期間のことである。話は、法律分野でのテクノロジの需要が見込めて、かつ、開発力にも恵まれた国、アメリカからはじまる。アメリカは判例法の国だ。唐突で申し訳ないが、これがリーガルテックにとって重要なポイントであった。
もちろん、アメリカ合衆国は世界で最初の成文憲法、条文で規定された憲法を持った国であって、その他たくさんの制定法が規定されている。しかし、その制定法を解釈したり変更するには先行する裁判、つまり判例に拘束されるという構造をアメリカは採用している。裁判所の判断は公開され、条文とともに連邦や州のルールとして機能するのである。
このような構造の中で、具体的にどのような行為が適法で何をすれば違法となるのかの予測可能性を法の名宛人(法律の適用を受ける国民など)に与え、その範囲であれば何なりと自由に活動ができることを保障しているのがアメリカだ。
ただ、裁判例というのは、当然、条文に比べると圧倒的にボリュームのある複雑なドキュメントになるわけで、ちょうど昨年11月、ハーバード大学が連邦と州の全裁判例の5年にわたるデジタル化作業を終えたが、それによると1600年代から直近まででの分量はおよそ650万件、4000万ページ超にわたったという。
この4000万余ページの裁判例の内容を知ること、具体的には、どの判例のどの文言が自己の案件に関係するかを知ること(リーガル・リサーチ)が、訴訟社会アメリカでは必要となる。そこで、膨大な条文と裁判例データをオンラインで検索するサービスが、アメリカではPCの実用化とほぼ並行して始まる(1973年4月2日Lexis)。
これは、空軍の調達契約と備品管理に使用していたソフトウエアCentral!を応用したもので、1970年にアーサー・D・リトル(1886年設立の世界最古の経営戦略コンサルティング会社)が、コンピュータによるリーガル・リサーチへのアシストはビジネスとして成立するという報告書を作成したことで生まれた商品である。当初は収録データが限定されていたものの、文書のすべてをデータベース化して全単語から機械的に検索単語を抽出するフルテキスト・データベース・サービスは、これ以降のテキストデータ検索を方向づけた。
これがリーガルテックの夜明けであり、同時に民間のデータベース産業の大きな足掛かりとなった。