今、求められているIT人材とは
エンジニアの皆さんはIT開発ベンダに勤務されている方、事業会社に身を置いている方、フリーランスの方、と様々な環境下でITの現場に向き合っていると思います。私が思うにそれぞれの環境で求められている人材が違うのではないかと考えています。まずはIT開発ベンダが求める人材について深堀してみたいと思います。
少しITの現場を離れIT開発ベンダを経営している人の立場に立って考えてみましょう。経営者は事業の継続性と成長性をコミットしています。IT開発ベンダの事業構造をひも解くと、極めてシンプルな事業構造であることがわかります。まず売上ですが、皆さんの働いた人月単価(販売単価)が主な売上となり、原価が皆さんの給与や福利厚生といった人件費になります(実際の管理会計上の計上方法は会社によって異なる)。売上から原価を差し引き、売上総利益が算出されます。いわゆる粗利というものです。その粗利からオフィスのコストや偉い人たちの間接コストを差し引き、営業利益が決まります。おおよそ多くのIT開発ベンダの営業利益率は5%前後ではないかと思います。
では経営者の視点に戻ってみましょう。事業の継続性と成長性を担保するために必要なアクションは何でしょうか。粗利の総額を増やすために必要なのは数量を増やし、単価を上げる事です。数量はこの場合、人員の数です。単価は皆さんの市場価格となるわけです。そうなると、多くの採用を行い、稼働率を上げ、できるだけ高い単価で売り、間接コストをキープもしくは下げる事で事業の継続性と成長性を担保できるのです。前段が長くなりましたが、IT開発ベンダが求める人材とは、市場価格が高く、原価が安い人材という事になります。原価を下げる(給与を下げる)と離職や良い人材が集まらなくなるので原価は高騰していることは言うまでもありません。となると市場価格が高い人材を育てる。ということになりますが、そんなにすぐに市場価格の高い人材は育ちませんし、教育コストは先の間接コストに響き利益を圧迫します。ですからIT開発ベンダは「生産性の高い人材をできるだけ高単価で売る」というモチベーションになるのです。つまり、掛け持ちや請負契約で販売人月工数を超える成果物を作り上げられる人材が最も求められる人材となるのです。後述しますが、このIT開発ベンダが求める人材と発注企業が求める人材には大きなギャップが存在していてこのギャップこそが悪循環を引き起こしている根源と言えるかもしれません。
さて、発注企業が求める人材はどうでしょうか。こちらはもっとシンプルで、単価が安く生産性と品質が高く、やろうとしていることを汲み取って仕上げてくれる人材です。特に事業会社はIT投資を行う際にROIの計算をします。その投資がいつ回収出来て収益貢献するのかという判断軸のもと投資を行います。当然、投資が少なければ少ないほど回収期間が短くなり事業に好影響をもたらします。ですので、できるだけ安く仕上げたいというニーズは確実に存在します。一見、IT開発ベンダが求める人材と事業会社が求める人材がマッチしているようにも見えます。確かに「生産性の高い人材」という要素はマッチしているかもしれません。大きなギャップ、特に今の時代にマッチしない一番の要素は供給側(IT開発ベンダ)の販売価格と需要側(事業会社)の要求価格に大きなギャップが生まれていることです。要するに、その提案される人材は“高すぎる”という事です。なぜなら供給側は生産性の高い人材は高く売りたいわけですから。
昔は良かったのかもしれません。特にソフトウェア開発は特殊業務で一部の業務、特にバックエンド業務を中心に案件が発生してきました。ですので、他に代わりが効かない仕事なので仕方なく要求される対価を事業会社は支払ってきました。その時代はその特殊業務が付加価値となり永遠に交わらい需要と供給のアンバランスをうまく補完してきたのですが、今のITは身近で、何をやるにしてもついて回る「普通の仕事」に変わったのです。ですから普通の仕事のわりに高すぎる。と発注企業は思ってしまうのです。そうなってしまうと、欲しいけど買えない、そもそも欲しい人材がいない、買ったけど使えない。となり徐々に売れない枯れた人材が増殖してくるのです。