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2025年の崖をどう超えるか

SAP移行を経営層に説得するための「リフト&シフト戦略」徹底理解


 2025年のSAP ERPの保守切れよって対応を迫られるSAPの移行は、「本社移転にも匹敵する大事業」となると鍋野氏は言う。その必要性をいかに経営層に説得するか。そのための「リフト&シフト戦略」の考え方、人材がどのように逼迫し、どのような実行ステップが必要になるかについて解説してもらった。(編集部)

 

前編では、経済産業省が発表した「DXレポート」に即して、日本の産業が旧システムを使い続けることで、競争力がますます低下するという経済産業省の提言について述べました。前回をお読みでない方は、ぜひこちらをお読みいください。今回は、2025年のSAP移行について解説します。

本社移転にも匹敵する「SAP移行」を経営上層部に説明できない問題

 既存システムにSAP ERPを導入しているSAPユーザ企業のIT部門が直面する課題が、「SAPの2025年問題」と呼ばれる保守期限切れ問題です。

 SAPは、2025年末の保守期限切れまでに次期メインERP製品のSAP S/4HANAへの移行を求めています。SAPに関わっていない企業やITベンダーから見れば、5年以上先の保守期限切れがなぜ今問題になるのか不思議に感じるようです。と言うのも、最近ではERPの導入期間は1年間程度なので5年間もあれば技術的には難しくないからです。

 もちろんSAP ERPも1年間あれば新規導入は技術的に全く問題ありません。つまり問題の要点は、移行する理由(大義名分)とその技術者(SAPコンサルタント)の確保にあります。

 SAP ERPの国内ユーザ企業は2,000社以上で、その多くが導入から10年以上経っています。利用している機能の多くは、会計機能(財務会計と管理会計)です。2019年現在で、次期メインERP製品のSAP S/4HANAへ移行(および移行作業中)は100社余の約5%ではないかと言われています。

 ユーザ会やSAPの推測によると、現時点で半数はS/4HANAへの移行予定らしいのですが、残り半分はまだ未検討とのことです。IT部門の担当者の悩みは、「安定稼働しているSAP ERPをなぜこのタイミングで、なぜS/4HANAへ移行しなければならないのか」について経営や事業部門へ上手く説明できないことです。

 SAPは、企業の基幹システムとして全社のマスタ情報や業務データの中心となるシステムです。その中心を別のシステムへ入れ替えるのは、移行すべき理由が明確にあっても容易ではなく経営や事業部門の合意と協力無くして実行は出来ません。分かりやすく例えるならば、本社を丸ごと別の場所へ移転するような感じです。築年数が古くても居心地の良いビルから、わざわざ都心の最新高層ビルへ手間とコストを掛けて移転するようなものです。これまでも、バージョンアップは繰り返してきたのですが、今回はこの20年来で最も大きな移行であり、莫大な投資や準備、外部ベンダーの支援などが必要となります。

図表1.SAPの基幹システムの歴史

図表1.SAPの基幹システムの歴史[画像クリックで拡大表示]

図表2.SAP S/4HANAが変えるERPの使い方

図表2.SAP S/4HANAが変えるERPの使い方[画像クリックで拡大表示]

移行シナリオなし、経験者もコンサルもいない問題

 SAP ERPからS/4HANAへの移行を決めかねているIT部門が悩んでいる理由で多いのが、次の5つの課題です。

  • 課題1.SAP ERPからSAP S/4HANAへの移行すべき理由(ストーリー)が無い
  • 課題2.既存システムの機能をそのまま移行するのか、機能を拡充して刷新するのか
  • 課題3.IT部門にSAPの移行体制を組める余裕がない、DXやRPA/AIなど手一杯
  • 課題4.移行に必要なSAPコンサルタントを確保できそうにない
  • 課題5.SAPを導入した経験を持つ人材が居ない(少ない)経験がほとんど無い

課題1.のS/4HANAへ移行が必要だと言うことはもちろん理解しています。しかし、これを自社の状況を踏まえた上で、経営や事業部門を説得するシナリオ(ストーリー)が考えられないのです。こうした多くの企業は、現状のSAP ERPを会計機能中心に導入していて全く不満を感じていません。安定稼働していて社内の評判も良く、このタイミングで移行するきっかけが掴めないのです。不用意にS/4HANAへの移行を上申しても、SAPの都合に一方的に合わせているように見えるため、社内の状況や上申のタイミングをもう少し見定めたいというのが本音です。課題2.については、可能な範囲で新しい機能を最大限利用したシステム再構築を考えていますが課題1.の通り移行の理由とタイミングが明確にならないと具体的な検討には入れません。

日本情報システム・ユーザー協会(JUAS)の年次レポート「企業IT動向調査」によれば、ユーザ企業のIT予算の8割が既存システムの維持管理に使われているそうです。「現状維持8割:新規開発2割」と言われますが、その状況はあまり変わっていないようです。さらに、最近ではDXやRPA/AIといった新しいテクノロジーへの対応も求められています。

課題3.で上げたIT部門にSAPの移行体制を組める余裕がないのは、こういう状況を踏まえてのものです。ここに追い討ちを掛けているのが、圧倒的な人手不足です。IT業界は慢性的な人手不足ですが、SAP市場はさらに厳しくリソース不足で導入が遅延したり、SAPコンサルタントの単価が高騰したりしています。ベンダー丸投げでSAPを導入したユーザ企業では、移行の相談に乗ってくれるベンダーすら見つけることが出来ない状態です。これが課題4.の理由となります。

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にわかSAPコンサル仲介ビジネスに気をつけよう

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この記事の著者

鍋野 敬一郎(ナベノ ケイイチロウ)

米国の大手総合化学会社デュポンの日本法人に約10年勤務した後、ERP最大手のSAPジャパンへ転職。マーケティング、広報、コンサルタントを経て中堅市場の立ち上げを行う。2005年に独立し、現在はERP研究推進フォーラムで研修講師を務めるなど、おもに業務アプリケーションに関わるビジネスに従事している。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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https://enterprisezine.jp/article/detail/12191 2019/07/03 16:04

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