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情報と社会インタビュー

「情報と社会――井出明 心のダークツーリズム」(第2回)


 災害や戦争、近代の労働問題など悲しみの記憶を抱える場を訪れ、影の歴史にも目を向ける「ダークツーリズム」。日本におけるダークツーリズム研究の先駆者として、社会情報学的手法を用いて観光学研究を行う井出明さん(金沢大)に情報法研究者の鈴木正朝さん(新潟大)が2時間を超えるインタビューを行った。観光学と社会情報学の接続、近代的悲劇との向き合い方などを探りながら、井出さんの学生時代の思い出話とともに、その心のダークサイドにも迫る。(第1回はこちら)

社会情報学と観光学、ダークの旅路

 インタビュイー:井出 明(いで あきら)金沢大学准教授(観光学)
 インタビュアー:鈴木 正朝(すずき まさとも)新潟大学教授(情報法)

(左から)井出 明さん、鈴木 正朝さん(情報法制研究所にて、撮影:青木モリヤさん)

点在する災害遺構の情報と防災学習活用の可能性

鈴木:過去と向き合い続けると言えば、3.11の遺構を残すべきか否かという論争がありましたが、やはり遺構は残すべきものなのでしょうか。

井出:遺構はもうほとんどなくなってしまいました。残すべきですが、残すにはお金がかかる。ですから、残す場合は観光活用とセットにしないといけないのですが、人が大量に死んだところを観光に使ってよいのかという話もあります。また、遺構がもっている価値に地元の人も気づいていない。岩手県であれば大槌町の旧町役場。もう解体されましたが、当時の町長や公務員が多く亡くなっています。意思決定者が一気に亡くなった場合どうやって復旧をするのかということを勉強するのに良い場所だった。

解体されてしまった旧大槌町町役場(提供:井出明さん)

 また、田老観光ホテルは、幸い残っていますが、これは観光における防災を考えるうえで非常に意味のある場所です。石巻の大川小学校であれば学校防災。女川であれば、七十七銀行の教訓が重要です。上司の指示に従って、本来の避難場所ではない場所に避難したらそこに津波が来て多くの人が死んでしまったという場所です。七十七銀行も元の建物を消してしまいましたが、遺構として残して企業防災を考えるヒントにできたはずです。

 今挙げた4箇所は、学校防災、観光防災、企業防災、公務員防災などを考える装置として、それぞれの遺構を線でつないで旅をすることで機能します。残念なことに各遺構の導線をどう繋いで、何をどの順番で見せてどういう教訓を授けるか、という大きな俯瞰図を誰も書かなかった。観光地は点で存在していてもあまり強力ではない。インターネットと同じです。繋ぐことではじめて意味が出てくる。そういった考え方がこの8年間ありませんでした。

鈴木:今挙げた半分以上は私有地、私有財産としての遺構ですよね。もしホテルなら更地にして再建して収益をあげ生活をしていかなければならないし、遺構に残すとなれば私有地ごと提供して、別途の土地で再建するほかなくなります。

井出:田老観光ホテルはうまくいっているんです。国が遺構を残す費用を1億円まで出すということで、行政がもとの観光ホテルを買い取った。元の観光ホテルは別の場所に建物を建てています。このスキームを使えばできたことは多いのですが、実際に残すかどうかという段階で、多くの遺構は地元の政争の具にされてしまった。大槌町にしても、撤去はすぐにお金が動くが遺構の保存には膨大な手間がかかります。そうすると10年単位で観光資源として整備して誘客し、ビジネスとして成り立つ仕組みを作らなければなりません。かなり大変ですよね。しかもそれができる人は日本に少ない。ヨーロッパでは遺構の活用、集客、誘客をして博物館的なものを作って、何を教え、他の観光とどう組み合わせるのかということが当然のように考えられるが、日本は経験がない。うまくいっているところはないのかもしれません。

鈴木:今からは間に合わないですか?

井出:難しいんじゃないでしょうか。点でしか残っていないので、繋いで何かをみるのは。宮城県の沿岸部に多少可能性はありますが、点で存在しているだけなので、繋いで何かを見せる仕組みというのは厳しいものがあるでしょうね。

鈴木:日本全体でみるとこれから少子高齢、人口減少社会でしょう。地方はそれが顕著に現れます。復興予算をどれだけ使ってもリタイアした高齢者中心では産業のない町ができる。どうしたって先細りで、予算を投入しても次につながっていかない。観光とセットに、ビジネスモデルをなんとか構築して住民が生活できるといった中長期のプランニングをしないと持続しないという話は出なかったんでしょうか?

井出:出なかったですし、そういう意味では観光に町が頼ることになれば、もう末期症状です。観光に頼らない町づくりをしておかないと実は結構危険です。観光でうまくいくことは博打的なところがあるんですよね。観光地を作ろうとして、それでうまくいくことはあまりない。町並みなどを保全していたら、人が沢山来てしまって観光地となったというのが好事例です。安倍内閣になってから地方創生予算って実は結構高いですが、地方でそれを使える人材があまりいない。だから結局、総研やシンクタンクに地方創生予算を丸投げしてプランニングをさせています。それで地方創生予算がまわっているだけで、実は地方に金を出して東京に還流しているに過ぎません。地方の首長や議員を説得するにあたって、きれいな景色、美味しいもの、親切な人々を三点セットで金太郎飴のようなプレゼンをつくる。ですから、新しい観光のパンフレットをみても、どこの町の観光パンフレットも驚くほど同じです。今の日本でまずいもの、汚い景色、嫌なやつにあうということのほうが難しいですよね。田舎にいくとどこにも優しい人々がいる。観光開発をやっているようにみえて、予算消化のアリバイのために観光振興をやっている場所はかなりあります。

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「今ある悲劇を受け入れる」ダークツーリズムやアートという方法論

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この記事の著者

鈴木 正朝(スズキ マサトモ)

新潟大学 大学院現代社会文化研究科/法学部 教授(情報法)。理化学研究所 革新知能統合研究センター 情報法制チームリーダー、一般財団法人情報法制研究所 理事長を兼務。 1962年生。中央大学大学院法学研究科修了、修士(法学)。情報セキュリティ大学院大学修了、博士(情報学)。 情報法制学会 運営委員・編集委員、法とコンピュータ学会 理事、内閣官房「パーソナルデータに関する検討会」構成員、同「政府情報システム刷新会議」臨時構...

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