アマゾンの「弾み車ビジネスモデル」が生み出す爆発的なスループット
「DXは生産性向上の最強の武器である」をテーマとするシリーズ1は、今回の前編と後編で終わりです。次回よりシリーズ2に移行するにあたって、前回までの内容を振り返ります。そのために今回は、アマゾンEコマースと書店を比較します。
前回のテーマは、アマゾンEコマースが米国小売市場の頂点に立とうとしている、そのパワーの源泉たる驚異的な破壊力が、どのようにして生み出されたかでした。その破壊力を生み出すのは、ベゾスが創業当時から描いてきたといわれる「弾み車(FLYWHEEL)」と呼ばれるビジネスモデルです。アマゾンEコマースの成長の仕組みを描いた弾み車のゴールは、スループットの最大化です。
弾み車ビジネスモデルが備えている仕組みが、スループットの最大化をなしとげ、さらにそれを加速させていきます。仕組みのひとつめは、「売り手(SELLERS)」が増えれば「商品の選択肢(SELECTION)」が増えるから、CX(カスタマーエクスペリエンス:顧客経験)が改善され、だから「スループット=購買量(TRAFFIC)」が増えるループです。
購買量が増えれば、サーバーや物流センターなどの固定費を効率的に利用できるので、「低コスト構造(LOWER COST STRUCTURE)」にできます。すると商品の「低価格化(LOWER PRICE)」が実現されますから、やはりCXを改善できます。後ほど述べますが、この低コスト構造化には、ITサービスのデジタル直結によるプロセスイノベーションで、店舗やスタッフのコストがカットされていることも大きく貢献しています。
すると商品の低価格化により、さらに購買量が増えますから、購買量が増えれば売り手が嬉しいので、売り手が増えます。結果として商品の選択肢がさらに増えます。するとCXがさらに改善されて、購買量がますます増えます。このようにして弾み車の良循環は、どんどん加速していきます。その結果が数億品目といわれる膨大な商品点数です。
この数億品目といわれる膨大な商品数が、アマゾンに「ロングテール」と呼ばれる戦略をとらせることを可能にしました。雑誌『WIRED』の編集長を務めたこともあるクリス・アンダーソンは、アマゾンをはじめとしたEコマースの普及により、限られた商品の品揃えしかできないリアル店舗では、従来、ニッチ商品とされ扱われることがなかった商品の販売総額が売れ筋商品のそれを上回ったという現象を指摘し、「ロングテール」と名付けたのです。従来のリアル店舗では「売れ筋」に対して「死に筋」と呼ばれた商品を、アマゾンの弾み車ビジネスモデルが大きな収益源へと変えたのです。これはアマゾンに限らず、たとえばテレビ番組をインターネットの動画ストリーミング配信やYouTubeが押しのけてきたようにあらゆる領域でみられる現象ですが、数億品目の商品点数を実現したアマゾンが、もっともロングテール戦略の果実を享受しているということができるのではないでしょうか。