アサヒグループの間接業務BPOとペーパーレス化
嵐田氏は冒頭で「深い事業理解と専門性を基盤とし、高い生産性と業務品質を同時に実現する改革実行会社を目指す」という同社のビジョンを示した。とはいえデフレ経済の中では、コスト削減を追求しすぎて業務品質の低下に陥ったこともあったと明かす。効率と品質のバランスの追求は難しく、現在も「単なる効率化ではなく、業務品質を伴った最適プロセスの実現を目指している」ことを嵐田氏は強調する。
アサヒグループの業務改革は、定型業務の効率化から始まった。2017年から経理と人事業務の約7割をアクセンチュアの大連センターにBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)するプロジェクトを開始。「このプロジェクトは効率化とコスト低減が目的でしたが、進めていく過程では様々な課題も浮き彫りになりました」と嵐田氏は振り返る。
言語の壁、人材の流動性、コロナ禍による物理的な交流の制限など、予想外の困難に直面したという。また、紙文書の扱いが効率化の足かせとなっていたことから、ペーパーレス化も積極的に推進。取引先とのデータ交換の電子化やOCR(光学文字認識)の活用など、さらなる効率化に取り組み、スキャナ保存制度導入を機に完全ペーパーレスを実現しつつある。
こうした業務改革は、なんとか達成できたが、経理業務そのものの改革については、なかなか思うように進められなかったと嵐田氏は言う。グループの経理業務は、1000以上の細かいタスクで構成されており、これら一つ一つを見直し、効率化していくには、膨大な業務改善の積み重ねが必要だったからだ。
「一つのタスク改善で得られる効果は0.01FTE(※)から0.1FTE程度。これだけでは単なる業務改善に過ぎません。しかし、30%のタスクを最適化できれば、3FTEから30FTEの削減効果が期待できます。これはもはやマクロの業務改革と呼べるレベルです」
※ FTE(Full-Time Equivalent)パートタイムの仕事量がフルタイム勤務の仕事に換算して何人分にあたるかを表す単位
小さな改善の積み重ねが、やがて大きな変革につながることは理解していた。従来の大規模な改革だけでなく、日常業務の細部にまで目を向けて改善を行うことが重要である。とはいえ、こうした改革はなかなか進まない。その理由を考えると、大きな障壁が存在することがわかる。嵐田氏は、いくつかの阻害要因を次のように指摘した。
- 担当者のモチベーションの持ちづらさ:「日々の業務に追われ、改善の余裕がない」「慣れた方法を変えたくない」「効率化しても新たな仕事が増える懸念」などが、担当者の自発的な改善を妨げている。結局のところ、細分化されたタスク1本1本の中身は、業務担当者本人にしか分からないが、そうした状況下では担当者が改善へのモチベーションを維持し難い。
- 業務全体の可視性の欠如:「担当者は業務の一部しか見えていない」「他社の異なる手法を知らない」「法令の緩和や技術進歩に気づいていない」といった状況が、改善の機会を見逃す原因となっている。
- 第三者による理解の困難さ:「タスクの中身は担当者本人しかわからない」「上司は出てくるアウトプットは理解できても、細かい業務フローまでは把握できていない」という状況が、組織的な改善を難しくしている。
組織的に課題を発見し、解決に導いていくには、まずは「可視化」が必要だった。そのために、タスクの洗い出しを行うべく引継ぎ書類の再構成などの作業にも着手したが、1000以上のタスクを洗い出すには限界があった。そのためには可視化のための共通のプラットフォームが必要だった。