市民を応援するテクノロジーの「3つのF」
ディスカッションはタン氏の行政院(内閣)での役割を訊くことから始まった。
日本で「大臣」と聞くと、「政府の頂点にいる偉い人」という印象だが、タン氏の場合は違う。元々、英語における“Minister/minister”という言葉は、大文字の場合は『大臣』、小文字の場合は『代表者』を意味するのだという。
現在のタン氏の実際の役職のあり方に対応しているのは小文字の「minister」の方であり、中国語の役職名の「政務委員」と合わせて「みんなを後押しするようなポジション」かつ「チャンネル」であると自らの役割を解説した。また、チャンネルについては、様々な価値観を持つ人々が集い、ディスカッションを行う「チャットルーム」がタン氏のイメージに近いと付け加えた。
このチャンネルという役割が政府に受け入れられたのは、成功要因として「Fast」(速い)、「Fair」(公平であること)、「Fun」(楽しさ)の「3つのF」が成功要因とタン氏は明かした。
1つ目の「Fast」については、翌週に政策をアップデートした例を紹介してくれた。毎週水曜日は、誰でも予約なしで好きな時間にタン氏の部屋を訪れ、話ができる日だ。例えば、台湾は経済刺激策として給付金を支給したが、当初はATMからの現金引出しができなかったという。ある人が水曜日に来て、ATMで給付金を引き出せるようにしてほしいという話を聞くや、翌週からそれが可能になった。
2つ目の「Fairness」とは、人がテクノロジーに合わせるのではなく、誰でもテクノロジーを使えるようにすることを意味する。EC以外のリアルの小売店で3,000TWDのお金を使ったとき、その翌週にはATMから使った金額の3分の2が補助として戻る「振興三倍券」という仕組みを作ったが、ATM以外の手段を希望する人たちには紙のバウチャーで現金と引き換えられるようにもしたという。
3つ目の「Fun」は、楽しくやることだ。政府のWebサイトもお祭りのように楽しい雰囲気にしているし、コンテンツを好きなように加工したり、自分の店の動画に加工して拡散したり、ソーシャルメディアにアップしてもいいようにしている。政府が何かしてくれるのを待つのではなく、市民を応援する体制にしたいと考えるためなのだという。
タン氏の活動の根底にあるのはRadical Transparency(徹底的な透明性)である。2014年3月のひまわり学生運動、2014年末の中華民国統一地方選挙における「Open Government(開かれた政府)」支持などの経験を通して、市民の声を聞くことは新しい台湾の日常となった。閉じた場所で選ばれた人たちだけで会議をするのではなく、立場の異なる人たちと様々な視点を共有する姿勢が育まれている。