新型コロナウイルスの流行によりテレワークの導入に踏み切った企業が増える一方で、コールセンターのような情報管理が厳しい業務の在宅勤務を実現することは、非常に難しい。その中で、いち早くコールセンターの在宅化を実現したのがチューリッヒ保険会社だ。
同社では新型コロナウイルスが流行する以前よりBCPの観点から、コールセンターの在宅化に向けた取り組みを行っていた。なぜなら、同社の強みは顧客へ保険商品をダイレクト販売するビジネス形態にあり、顧客との唯一のつながりはWebとコールセンターとなる。ここをセキュアにすることが課題として存在していたからだ。
この課題に挑むきっかけの1つとなったのが2011年の東日本大震災。東京都で輪番停電が実施された影響もあり、国内に集中させていたデータセンターを海外へ移設したという。
一方で、コールセンターの在宅化を検討し始めたのが2013年。このとき、世界中ではMERSが流行しており、事業継続のためコールセンターの在宅化を検討し始めた。この翌年に在宅勤務規定を制定し、2017年にはコールセンター以外の固定電話を廃止。
そして、2019年には台風19号の襲来によってコールセンターの社員が出社できないという事態が発生。これを契機に環境整備を進め、2020年2月にはコールセンター業務を在宅化する環境を整えることができたとチューリッヒ保険会社 ITサービス本部長CIOの木場氏は振り返る。
くしくも、同時期に新型コロナウイルスが流行し始めており、4月の緊急事態宣言発令のタイミングでコールセンターを含む全社的な在宅勤務をスムーズに実施することができたという。
コールセンターの在宅化で、重要視した4つのポイント
「なんといっても、社員の健康と安全を第一に考えた」と木場氏は強調する。
新型コロナウイルスが流行するなかで、社員が感染するリスクを抑えることを第一に考える。これを踏まえた上で、顧客と社員の両方の情報を漏らさない仕組みづくりや通常と変わらないクオリティの実現。そして、コスト面も検討しつつコールセンターの在宅化を目指したという。
特に、コールセンターの在宅化を実現するうえで、「経営陣に対して、IT基盤を整備することは危機管理として重要だということを、経営ごととして認識してもらい、投資してもらうこと」がCIOの役割として重要だと経験から述べている。
危機管理の観点からもコールセンターの在宅化は必要だが、全社視点で挑まなければ実現できないことでもある。そのためにも、まずは経営陣に会社全体の最優先事項だと認識してもらうことが重要だと説明する。実際に木場氏は「経営陣に対してファクトベースで説明を繰り返すことで信頼を得て、コールセンターの在宅化に着手することができた」と、CIOが経営陣に対してアクションを起こすことの重要性を強調した。
また、コールセンターの在宅化を行う上で、顧客に安心感を与えるための技術検証を重要視したと紹介している。
コールセンター業務では電話応対における通話品質の担保と通話内容の録音が必須であり、在宅勤務でも変わらないレベルで実現するために度重なる技術検証を行ったという。
このとき、木場氏はCIOとして技術検証チームをリードすることに努め、技術検証を試行するうちにコールセンターを在宅化するための環境を整えることができたと説明している。
さらに木場氏は、新型コロナウイルスの流行に伴い「取れるリスクと取れないリスクをタイムリーに判断する必要がある」とも指摘する。
例えば、緊急事態宣言下でネットワーク関連のプロジェクトを実施し続けるとしよう。仮に障害が発生した場合には、現場で対応しなければならず、その結果多くの社員に感染リスクが発生してしまう。そのため、ある程度のコスト増を覚悟した上で実施中のプロジェクトを止め、システムリリースなども最低限にするなどのリスク判断を行ったという。