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紛争事例に学ぶ、ITユーザの心得

発注側は知っておきたい、システム開発をベンチャー企業へ依頼する際のリスク

 テクノロジー自体の進歩や様々なサービスの発達・普及により、以前に比べシステム開発は工数やリソースを圧縮して実現できる世界となりました。その結果、開発の委託先の選択肢も増えましたが、大手のベンダーではなく、ベンチャー企業への発注する際に把握しておきたいリスクも存在します。事例を見てみましょう。

増えてきたベンチャー企業への発注

 最近のシステム開発は、様々なクラウドサービスやツール類を駆使することで工数を圧縮して行うことが可能になりました。以前なら一つの画面を作り上げるのに丸一ヵ月かかっていたものが、テストまで含めても数十分で終わってしまうなどというケースも少なくありません。

 昔は千行程度のプログラムを一行一行書き足し、一つひとつの条件分岐や設定毎に単体テストを行っていました。現在は最初からある程度できあがっている画面の設定を変え、部分的にスクリプトを加えたものを自動テストツールなどで、サラッとテストをすれば、実際の業務に使えるものができてくるわけですから随分と便利になったものです。

 そこまで簡単ではなくても、やはりシステム開発においてコードを書く量は随分と減ってきました。それと比例するように、開発の委託先も大手のベンダーではなく、ほんの数名で運営するベンチャー企業や、個人となるケースも増えてきたように思います。

 もちろん銀行の勘定系システムをはじめとする大企業の基幹システムなどは、そうはいきません。簡単な営業支援システムや分析システム、ある程度の規模までのERPなどは大手のベンダーに頼むよりずっと安価で、一般に工期も短い小規模の開発業者に頼むケースが増え、政府でもベンチャー企業への発注を奨励するようになってきました。

そこには、ならではのリスクも……

 こうしたベンチャー企業や個人への委託は、一般に費用も、作業する技術者が誰であるのかもわかりやすいこと、また大手のベンダーに比べて社内の規則などの縛りも少なめであることなどから、使い勝手が良いというメリットがあります。しかし、その裏返しとしてのリスクがあることも否めません。

 その一つとしてときどき耳にするのが、ベンダーとの連絡が突然途絶えてしまうことです。

 大手のベンダーに発注をしていれば、まず考えられないことです。開発がうまくいかずに納期を守れそうになくなった、当初の想定から要件が変わってしまった、あるいは何らかの技術的な困難にぶつかって解決策が見つからないなど、突然、相手と連絡がとれなくなったというケースを、私も裁判所で何度となく聞いたことがあります。

 無論、そのまま行方知れずになってしまったというケースは少なく、ある時期から開発に関わる交渉は再開されることが多いのですが、もうすべてがToo Lateで契約を打ち切るしかなく、そこまでの作業費用の支払いを巡って裁判になってしまうということも珍しくないのです。

 今回ご紹介するのも、同じように“途中で開発者との連絡がとれなかった"というケースです。ただ、ちょっと目を引くのは、その期間がたった1日で、それだけでベンダーが責任逃れをしているとまで言えるのかという点です。連絡が1日とれないくらいは、大手のベンダーでもよくあることのように思えるのですが、裁判所はどのように判断したのでしょうか。

次のページ
たった1日の回答遅れがベンダーの義務違反?

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この記事の著者

細川義洋(ホソカワヨシヒロ)

ITプロセスコンサルタント東京地方裁判所 民事調停委員 IT専門委員1964年神奈川県横浜市生まれ。立教大学経済学部経済学科卒。大学を卒業後、日本電気ソフトウェア㈱ (現 NECソリューションイノベータ㈱)にて金融業向け情報システム及びネットワークシステムの開発・運用に従事した後、2005年より20...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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