何を見送るかを決めないと、デジタル化は失敗する
前回の連載を読んで、デジタルマーケティングのファンクショナリティ・マトリクス(FM)を作ってみた方はおられるだろうか?
FMは、関係者が多いほど機能要求の数が膨れ上がったり、「これ本当に実現できるの?」と思うような機能要求が出たりする。前回オマケでつけたMAのFMサンプルにも、かなり無茶な要求が入っている。潤沢な予算と時間があればそのすべてを実現することは可能かもしれないが、通常はそうはいかない。ではどうするか。要求に優先順位を付けるしかない。具体的には「すぐに実現したい要求」「そのうち実現したい要求」「実現を見送る要求」の3つに分類する。基幹システムなど大規模なシステム導入では何百という機能要求が出るため、実現時期をさらに細かく分けることもあるが、今回のように領域に閉じた小規模なFMであれば、3分類がちょうどよいと考える。場合によっては、「実現する」「いったん見送る」の2分類でもなんとかなるかもしれない。
「そんな面倒なことをするなら、最初から盛りだくさんの機能要求を作らなくてもよかったのではないか?」そんな疑問が出るのも、ごもっともである。しかし、機能要求をすべて出し切って絞り込む、というプロセスは関係者にとって良いことづくめなのである。いくつか例をあげてみよう。
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関係者全員がこのプロセスに参加することで「後出しジャンケン」を防ぐことができる。具体的には、ツールを使い始めてから「なぜXXという機能が入っていないのか。当然入ってると思っていたのに」「業務に不要な機能が多くて使いづらい」といった悲惨な事態になるのを、ツール導入前に防止できる。
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「すぐに実現したい機能要求」にしぼったほうが、早くツールを導入できる。「あれもこれも」導入する場合に比べて、結果的にコストとリスクを抑えられる。
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関係者の態勢の質が高まっているこのタイミングで、「そのうち実現したい要求」まで決めておけば、将来、もう一度関係者を集めてガッツリ議論をする労力をかけずに済む。組織のデジタル化や改革はパワーがかかるため、そう度々は実行できないと考えておくべきである(もちろん外的環境の変化やツールの進化などを織り込んだ軽微な見直しは必要だろう)。
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FMを精査したベンダーから「この要求はそのままでは実現できません。しかしこうすればそれに近いことができます」というクールな提案を受けることができる。
- マストな要求を実現できないツールを不採用にすることができる。ベンダーの営業が「うちのツールはこんなことができます」とキラキラしたプレゼンをしても、それがFMで「実現を見送る要求」であれば、冷静に不要判断ができる。
他にも様々な利点があるが、上記を見るだけでも、関係者全員がこのプロセスを踏んでおかないと、ツール選定や導入、その後の運用にも多大な悪影響を及ぼすことがお分かりいただけるだろうか。