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野中郁次郎×小泉英明 ダイアローグ:創造的失敗思考と“科学の使命”

Creative Failure and the “Mission of Science”

 2021年5月20日、FCAJ主催のシンポジウム「創造的失敗思考 Beyond the Creative Failures ー複眼で新しい世界を築く」が開催された。その中で行われた野中郁次郎氏×小泉英明氏のダイアローグセッションの内容をレポートする。 記事協力:FCAJ(Future Center Alliance Japan)

野中郁次郎 氏
一橋大学名誉教授 トポス会議発起人 FCAJ特別アドバイザー
小泉英明 氏
株式会社日立製作所名誉フェロー FCAJ特別アドバイザー
(モデレーター)
島 裕 氏
公益財団法人中曽根康弘世界平和研究所 主任研究員

危機と科学的思考を新型コロナから考察する


 昨年、FCAJはお二方の特別アドバイザーと2回の緊急提言を行いました。コロナ後の社会に向けて、「賢慮」のリーダーシップ、倫理観が必要となること、そして共感と利他精神への転換が求められるということを世界に向けて発信しました。この提言の背景にはコロナ後の経済社会に分断がもたらされることや、科学的思考によらない政策やイノベーションへの遅れを危惧していたことがあったと思います。その後、小泉先生はさらに具体的な提言をされました。1年を経て、かなり具体的に進みつつあると伺っています。

 そこで今日は改めてコロナ後の世界について考えるため、科学的思考と知識創造の交差する場=ダイアログを設けました。科学的思考の重要性が高まりを見せていますが、同時にそれはいかに失敗から創造的に学ぶのかということでもあると思います。このダイアログは小泉先生に問いかけて、野中先生からコメントをいただくような形で進行したいと思います。

 一つ目の問いですが、新型コロナの現状を見るにこれは純粋に自然災害の問題ではなくて社会全体の歪みを一気に顕在化させていると言えるのではないでしょうか。このような世界的な危機に対して、私たちのコロナへの対策は失敗したのでしょうか。小泉先生よろしくお願いいたします。

小泉
 本日はありがとうございます。新型コロナについては科学的に正面から取り組まないといけないという思いがあり、その視座からお話します。コロナ禍において、経済文化活動を続けながら、感染による死者を出さない努力をすることが、非常に大きな課題だと思います。これをどうやって解くか、その問いが投げかけられていると私は理解しています。このグラフ(図1)で左が人口100万人あたりの死者数を表しています。現在までのところを時間軸上にプロットしていくとそれぞれの国の政策がよく見えてきます。

図1 [クリックして拡大]

 現在、世界の死者は残念ですが、350万人を超えています。死者数が大きいブラジル、英国、米国は初期対応が遅れて悲惨な状況を引き起こしました。スウェーデンは、隣国のフィンランドやノルウェーと比べて10倍以上の死者を出してしまいました。ドイツも対策をきちんと行ってきたのにある時期から長期的な緊縮に耐えられなくなる状況が出てきました。日本は感染者が少ないといわれましたが、死者数はどんどん増えて、ここまで来ています。その下、オーストラリアと韓国が今ちょうど同じぐらいの数値です。韓国はK防疫ということで非常に成功したと言われてきましたが、現在また増加しています。注目したいのがオーストラリアです。ビクトリア州で感染爆発があったのですが、その後ほとんど死者を出さずに続いているわけです。これが実は私どもの1年以上前から提案してきた対策をとっている結果だと考えています。日本からもオーストラリアのプロジェクトには参加しています。そして中国は最初の感染爆発を徹底的なロックダウンや全数検査で克服したのですが、変異株が出てくるようになって慎重な状況へ戻りつつあります。台湾は最初から優等生で素晴らしかったのですが、また感染が急に広がりつつあります。国によっては、ワクチンにも限界が見えはじめています。

 このように何が成功かは非常に難しく、また問われています。それはイノベーションの本質と近いものがあると私は考えています。グラフの左に今回のテーマである失敗(Failure)という軸を入れましたが、評価するときには、第一のパラメーターは人口当たりの死者数であると考えているわけです。なぜなら、感染者数(陽性者数)は、検査をしなければ増えない恣意的な指標ですが、死者数ですと路上で倒れた不審死にも警察がPCR検査を行います。

 この感染症の一番の特徴は見えないことです。感染しても症状が見えないという人々がスーパースプレッダーとして感染者を増やしてしまいます。これを見えるようにする、可視化するというのが科学の第一歩です。この図2はディープラーニングを目的に20年ほど前に作ったコンピュータのチップですが、同じような概念で、計測がどういう要素から構成されるかを考え、正確でかつ非常に早い計測のオートメーション工場を公的に作るという提案を1年前にしました。1年後、安価な民間検査センターは雨後の竹の子のように生まれましたが、公的な動きはありません(しかし政府の方針は検査を増やす方向に転換)。日本では現実化しませんでしたが、検査工場のミニチュアライズの可能性も考えております。また、下水の PCR 検査による、点から面への計測の拡張ということが重要です。当時は可能性としましたが、現在ここにかなり注力されて、前処理の改善によって10倍から100倍も高感度化されて、前と状況は変わっています。オーストラリアも日本と共同研究を行い、感染をかなり抑えています。

図2 [クリックして拡大]

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科学の失敗をどのように考えるのか

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この記事の著者

山本信行(ヤマモトノブユキ)

株式会社Little Wing代表

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