MagentoはAdobe Commerceへブランド統一
――Adobe Experience Cloudにおけるコマース製品の位置付けについて教えてください。
長川:Adobe Experience Cloudは企業の顧客体験管理(Customer Experience Management:CXM)を支援する製品で、Adobe Commerceは「コンテンツ&コマース」のカテゴリーに分類されるアプリケーションです。製品の前身は2018年に買収したMagentoですが、2021年4月、これまで有償版として提供してきたMagento CommerceとAdobe Commerce CloudをAdobe Commerceという一つのブランドに統一することを決定しました。オープンソース版にはMagentoの名前が残ることになりますし、開発コミュニティやマーケットプレイスへのサポートは継続しますが、アドビとしては有償版の機能拡張に注力していく計画です。
――Magentoを買収してからどんな変化があったのでしょうか。
長川:私たちが訴求しているのは、体験を重視した「エクスペリエンスドリブンコマース」の実現です。日本では2020年から組織体制を整備して、本格的なビジネス展開を始めました。特に強化してきたのは他のアドビ製品との連携です。また、拡張性や信頼性など、アドビのエンタープライズ製品としての基準を満たすような領域も強化してきました。
――オープンソース製品と通常の製品の違いはどこにありますか。
長川:最近の強化例としては、BtoBコマースに特化した機能があります。コマースの仕組みはBtoC企業だけのものではありません。BtoB企業にも必要です。さらにアドビのお客様の中にはBtoBとBtoCの両方のビジネスをしている企業もいますし、これからそうなる企業も出てくると思います。例えば小売だけでなく、代理店を通して商品を販売するようなケースです。そこで私たちはBtoBコマースで必要な顧客からの依頼に基づいて見積りを行う機能と、購買ステータスを管理するためのワークフロー機能を提供することにしました。
オープンソース由来の製品なので、お客様がカスタマイズで必要な機能を実装することもできますが、バージョンアップの恩恵を受けられないというデメリットがあります。なるべく標準的な使い方をすることで、コストの点でもリーズナブルに使えると考えています。
今井:Adobe Commerceの最新バージョンは2.4.2。買収後はコマース機能のアップデートはもちろんのこと、エンタープライズ基準のセキュリティを担保することやプライバシー規制への対応は、特に重視して強化しています。また、開発言語がPHPですので、PHPのバージョンアップ、ライフサイクルに随時追随するようサポートサイクルも管理しています。
オンプレミス版とクラウド版の2つのライセンスを提供
――買収以降、エンタープライズ製品として整えてきたわけですね。
長川:はい。それからアドビの他の製品との連携も強化してきた領域です。Adobe Analytics、Adobe Target、Adobe Experience ManagerとAdobe Commerceを連携させた使い方は、アドビがこれまでに積み重ねてきた経験と実績があるから価値を訴求できる。そこは私たちとしてもお客様に価値を提供するために必要なことだと思います。
加えて、クラウド版だけでなく、オンプレミス版のライセンスを提供していることもユニークな特徴と言えるでしょう。クラウド版には素早く立ち上げられ、スケールインとスケールアウトを柔軟に行えるというメリットがありますが、計画停止のタイミングがセールの時期にぶつかったりすると、大きな機会損失になります。それはお客様にとって望ましいことではありません。ですからお客様にはオンプレミス版を購入し、プライベートクラウド環境を構築する選択肢も提供しています。オンプレミス版でもバージョンアップの恩恵が受けられますし、「良いところどり」ができるわけです。
今井:最近増えている例として、中国はオンプレミスで、他の地域はクラウドというユースケースです。その場合、中国内のAlibaba Cloud(データセンターの所在地は中国)などにオンプレミス版のライセンスをインストールし、グレートファイアーウォール対策をしています。Alibaba Cloudは日本にもデータセンターがありますから、その環境を使うという選択肢もありますが、市場規模の大きい中国を視野にいれた越境ECを展開したいお客様にはオンプレミス版との併用は有力な選択肢の一つになっています。