「Beyond AI研究推進機構」で目指すAI研究の事業化
ソフトバンクの成長戦略においても重要なテーマの一つである「AI」の活用は、DX実現を目指す企業にとっても他人事ではない。1960年代の第1次AIブームを皮切りに、2度の冬の時代を経て約60年越しに興った第3次AIブームは、ディープラーニングや機械学習といった技術の発展もあり、いまや人々の生活にまで影響を及ぼしている。
その一方で、再び冬の時代を迎えないために欠かせないのが、従来以上のビジネス価値をAIで創出することだろう。そこで、同社が推進しているのが“Beyond AI 研究推進機構”に関する取り組みだ。「Beyond AI 研究推進機構」は、東京大学とソフトバンク(ソフトバンク、ソフトバンクグループ、ヤフー)によって設立され、昨年7月に共同研究を開始した。10年間で最大200億円もの予算が拠出され、10件の事業化が目標として掲げられている。
同テクノロジーユニット AI戦略室 室長の松田慎一氏は、「孫正義氏と当時の東京大学総長は、日本におけるAIに関する教育面の課題やAIを核にした企業が生まれにくい状況について、共通認識を抱えていました。そこで、産学連携でAI革命を起こそうと両者が意気投合し、AIを育てて事業化することで、そこから生まれる利益をさらなる研究やAI人材育成に還元するという目的で本連携事業が始動しています。そのため、研究して論文を発表するだけでなく、事業化に注力している点が特徴です」と説明する。
本事業に関して、ソフトバンクは研究者として参加する他にも、システム開発や事業化などについての知見を活かしていくという。また、事業化を目指すにあたり「AIに特化した基礎研究(中長期研究)」と「社会実装を念頭においた応用研究(ハイサイクル研究)」の2つに大別してプロジェクトが進められている。そして、この応用研究として4月に発表されたのが、神奈川県海老名駅周辺エリアで実施される「次世代AI都市シミュレーター」の研究開発だ。
では、この研究開発の目的とは何だろうか。同 テクノロジーユニット AI戦略室 企画室 室長の國枝良氏は、「一言でいうと人の流れを観測し、人がどう動くのかをシミュレーションできるようにすることです。これにより、様々な意思決定に予測結果を活かすことができます」と語る。たとえば、収集したデータを基に人流とアクションの相関関係を導き出すことで、人の動きを精緻にシミュレーションできるようになる。これにより、新型コロナウイルス感染症対策のための密回避や混雑時の誘導、商業施設の購買施策、防災などあらゆる場面で、人流を最適にコントロールできるという。
今回のようなスマートシティに関連する同社の取り組みとして、「東京ポートシティ竹芝」を思い出すかもしれない。日本における大手通信キャリアとしての側面を持つ一方、都市における社会課題の解決に向けた取り組みについても重要視しているという。今回の海老名市における取り組みには、竹芝で得た知見を活かしながら東京大学 田中謙司准教授らの豊富な知見も取り込んでいくと國枝氏は述べる。