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顧客体験でビジネスを進化させたMastercard、指針は「アジリティ・共感・パーパス」 Vol.2

edited by Operation Online   2021/08/25 10:00

 米国ではコロナ禍をきっかけに、デジタル化によりビジネスを再生、成長させた成功企業がある。今回は、クレジットカード大手のMastercard、全米バスケットボールNBAのミルウォーキー バックスの事例を紹介する。両社はアドビとの共同により、デジタルでの顧客体験とデータ活用により、顧客やファンの満足度を高めた。

Mastercardの成功指針は、アジリティ、共感、パーパス

 クレジットカード大手のMastercardは、COVID-19の感染拡大にオールデジタル体制で迅速に対応し、成功を収めた企業だ。同社は決して、世界的パンデミックを予測していたわけではない。万が一に備え3年以上前に危機管理チームを設置していた。このチームの任務は、ビジネスに影響するリスクを特定して評価し、各リスクの発生確率を割り出したうえで、リスクが顕在化した場合の緊急時対応計画を作成し、その計画に基づいてMastercardの社員をトレーニングすることだった。同社 CMO&COOのラジャ ラジャマナー(Raja Rajamannar)氏は、今回のパンデミック対応の成功は、その危機管理チームによるものだという。

 「やっておいて良かったと心から思います。当時予測していたのは、(対面型の)イベントが一部地域で実施不可能となるような困難が生じた場合、デジタルへの転換が避けられないだろうということでした。その考えのもと、代理店との連携や従業員同士の共同作業から、Mastercardの中核である『プライスレス』な顧客体験の企画までのすべてをデジタル化したのです」(ラジャマナー氏)

 昨年、Eコマースやモバイルコマースが爆発的に普及したことで、デジタルはすべてのビジネスにとって必須のものとなった。アドビのDigital Economy Indexによると、2020年に消費者がオンラインで消費した金額は8,130億ドルで、2019年から42%増加している。デジタル消費の急増は、人々が商品やサービスを購入する方法に大規模な転換をもたらし、ポジティブな変化を後押した。

 ラジャマナー氏によると、コロナ禍でも回復性を保ち、成功し、革新的であり続けられた企業の特長は、最もデジタルの面で成熟し、ユニークで共感的であったことだという。すでに、コンテンツ、プロセス、ワークフロー、顧客体験のデジタル化に精通していた組織は、駆け込みでオンライン化に対応する必要はなかった。その代わりに、競合のなかからクリエイティブで優位に立つ方法や、顧客やコミュニティをサポートする施策に集中することができたからだという。

 「競合すべてが同じテーマや優先順位を追い求め、同じようにプレッシャーを感じているときでも、優れたブランド企業は独自性と差別化で際立つことに成功しました」と、ラジャマナー氏は述べる。そして、「共感を大切にすること」、「売るのではなく奉仕するという考え方に立脚すること」、「消費者と社会全体に向き合うこと」などが重要であると付け加える。

大義、文化、DQ(良識指数)を追求する

 Mastercardは、パンデミックの期間中でも、従来通りの社会貢献活動を継続するとともに、企業のパーパス(社会的な存在意義)に沿った新たな取り組みにも参加した。例えば、非営利団体Stand Up To Cancerとの積極的なパートナーシップを継続し、がん患者のための7つの薬の発見と承認に貢献した。さらに、LGBTQ+コミュニティを支援するコミットメントの一環として、トランスジェンダーコミュニティを特に支援するために2019年に発売された「True Name Card」というクレジットカードの開発を継続的に支援した。True Name Cardでは、カードの表側に利用者が自認する名前を、裏側には規制上の要件である「法的な」名前を小さな文字で記載することができる。

 Mastercardは、2020年の夏に起きたジョージ フロイド(George Floyd)氏の悲劇的な死を受けて、Black Lives Matter運動の支援にも積極的に参画した。同社は、全米の黒人コミュニティが直面する富や機会の格差を解消するために、5億ドルの寄付を約束した。その中には、黒人女性が経営する小規模ビジネスを紹介し、リソースやトレーニング、資金を提供するプログラムも含まれているという。

 また、社会の文化やステレオタイプは、映画や広告によって形成されているとラジャマナー氏は指摘する。そして「(同様に)私たち企業にも文化や社会を形成する力があります。リソースとネットワークを使い、ある信念や考え方を形成する。私たちはこれまでその力を自社のためだけに使ってきたのです」と述べる。

 ラジャマナー氏は、Mastercardのアジェイ バンガ(Ajay Banga)会長が使った造語「DQ」(decency quotient:良識指数)についても言及した。CEO在任中、バンガ氏は、「知能指数(IQ)や心の知能指数(EQ)はよく取り上げられますが、最も重要なのはDQ、つまり良識指数です」と語る。

 社会やテクノロジーの変化がデジタルに大きな影響を与えていることから、ラジャマナー氏は近い将来、マーケティング戦略は大きな飛躍を迎えるという。Wall Street Journalで新刊ベストセラーとして紹介された『Quantum Marketing: Mastering the New Marketing Mindset for Tomorrow’s Consumers(飛躍的マーケティング:未来の消費者を想定した新しいマーケティングマインドセットの習得)』を発表したばかりの彼は、同書で「私たちは、マーケティングの第5のパラダイムと呼ぶべきものを目前にしており、マーケティングの古典的な理論や枠組みはすべて根本から覆される」と主張する。ラジャマナー氏は飛躍的マーケティングを「未来のためのプレイブック(行動計画)」と呼び、未来のマーケティングは、テクノロジーを駆使しデータを活用することおよび世界中で前例のない規模で起きている文化的な変化に共感するものになると述べた。

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