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ESG経営で日経平均は4万円になる――エーザイCFOが世界に発信する「柳モデル」とは? 「BeyondTheBlack TOKYO 2021」レポート#02

edited by Operation Online   2021/08/25 06:00

 ESG(環境、社会、ガバナンス)経営が企業価値向上に貢献するのか。これは昨今の日本企業の経営者にとっての大きな関心事である。一方で、そのステークホルダー以外の一般の生活者にとっても、ESG経営は決して無関係ではない。8月18日から19日にかけてオンラインで行われた「BeyondTheBlack TOKYO 2021」では、基調講演にエーザイCFOの柳氏が登壇し、「“柳モデル”によるESGと企業価値の実証 見えない価値を見える化する」と題した講演を行った。

「日経平均4万円」実現の前提条件

早稲田大学大学院 客員教授/エーザイ株式会社 専務執行役CFO 柳良平氏
早稲田大学大学院 客員教授/エーザイ株式会社 専務執行役CFO 柳良平氏

 企業のESGへの取り組みは、世界的な資産運用会社にとって最大の関心事になりつつある。「私は株式を保有していないから関係ない」と思うのは誤りだ。少子高齢化が進む日本では、公的年金の積立を運用するGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)を通じて国民全員が株主なのである。企業の株主価値の向上は、国民全員の年金価値の最大化につながるのだ。グローバルでのESG投資は、年々規模が増大している。GSIA(Global Sustainable Investment Alliance)の調べによれば、2018年のESG投資額は30.7兆ドル、年換算で16%成長しているという。

 ではESG経営のインパクトをどのように評価すればいいのか。着目するのは、企業価値を評価する際に使う指標の1つ、PBR(Price Book-value Ratio:株価純資産倍率)である。これは企業の資産面から株価が適正価格かどうかを判断する指標であり、当該企業の株価が会計上の純資産額の何倍かを表す。エーザイの場合、分母の純資産額は簿価で約7,000億円、そして分子となる現在の時価総額が約3兆2,000億円だったとすると、PBRは約4.5倍。差分である2兆5000億円が簿価に上乗せして市場が評価した価値であり、非財務的価値の総和に相当する(数字は講演収録時の概算)。

 「この見えない価値が市場付加価値全体に占める割合は、一昔前と比べて激変している」と柳氏は指摘する。

 IMA(Institute of Management Accountants, 米国管理会計人協会)の機関誌『Strategic Finance』の2017年5月号では、1975年に市場付加価値全体の2割に過ぎなかった非財務的価値の割合が、2015年には8割に達し、2020年には9割になるという試算(原典はOcean Tomo)が掲載されている。だとすると、「PBRの1倍越え」程度で満足しているようでは不十分だ。日本企業の精神風土には、自然環境や人材を大事にする意識が根付いている。「日本企業はYDK、や(Y)ればで(D)きる子(K)なんです(笑)」と述べ、柳氏は財務諸表で表現できていない「見えない資産の価値」を開示し、資本市場から評価を得ることの必要性を訴えた。

 先進国企業のPBR平均は2倍。柳氏は、令和の初日にあるテレビ番組で「令和の時代にPBR2倍、日経平均は4万円になる」と予測したという。その前提条件は日本企業がESGへの取り組みの価値を証明することだ。PBRはROE(Return On Equity:自己資本利益率)とPER(Price Earnings Ration:株価収益率)の積に分解できる(図1)。

 つまり、PBR2倍を実現するには、例えばROEを10%、PERを20倍にする必要がある。さらに一定の前提でPERを展開すると、「rg」の逆数になる。ここでの r は株主資本コスト、 g は利益成長率を示す。仮に資本コストが8%だとしたら、利益成長率を3%にしなくてはならない。理論的には、資本コストの抑制ではオペレーションリスクを低減する取り組み、利益成長率向上では長期的な成長に資する投資を進めることで、PBR 2倍を達成できる。

図1:質の高いESG経営がPBR増にもたらすインパクト *クリーンサープラス関係とは、P/Lにおける期間損益と、B/Sにおける純資産の増減額(資本取引による増減額は除く)が等しくなる関係をいう。 出典:エーザイ[クリックして拡大]

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著者プロフィール

  • 冨永 裕子(トミナガ ユウコ)

     IT調査会社(ITR、IDC Japan)で、エンタープライズIT分野におけるソフトウエアの調査プロジェクトを担当する。その傍らITコンサルタントとして、ユーザー企業を対象としたITマネジメント領域を中心としたコンサルティングプロジェクトを経験。現在はフリーランスのITアナリスト兼ITコンサルタントとして活動中。ビジネスとテクノロジーのギャップを埋めることに関心があり、現在はマーケティングテクノロジーを含む新興領域にフォーカスしている。

  • 京部康男 (編集部)(キョウベヤスオ)

    翔泳社 メディア事業部。EnterpriseZineの他、翔泳社のメディア、書籍、イベントに関わってきた。現在は、嘱託社員の立場でEnterpriseZineをメインに取材・記事・コンテンツ制作にも携わる。 kyobe(a)shoeisha.co.jp

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