コロナ禍、とあるアパレル企業がEC会員増加施策に挑むが……
企業がデータマーケティングを行う際には、基幹システムやWebサイトなど多くのデータソースからデータを抽出し、マーケティングオートメーション(MA)やBIなどのツールを活用することになる。このとき、各システムからMAなどのツールにデータを取込、加工、統合し、抽出するのに非常に手間がかかるという課題があると、宮川雄希氏(以下、宮川氏)は指摘する。
宮川 雄希氏 株式会社データX Marketing Unit/Manager
PRエージェンシーのコンサルティング部門にて、クライアントのマーケティング戦略の企画立案〜実行までを支援。また、営業としても社長、事業部、マーケティング部、広報部を中心に営業、提案(プランニング)を実施。
その後、株式会社データXに転職し、自社の広報・PR・ブランディングだけでなく、マーケティングや採用まで幅広く担当。現在はMarketing UnitのManagerとして、マーケティング全体を統括している。
データXが提供するデータマーケティングクラウドシステムの「b→dash」は、「データの取込・加工・統合・抽出・活用」を、SQLを使わずにノーコードで実現。また、データマーケティングで必要となる機能が“All in One”でそろっているのが特長だ。用意されているツールをすべて使うことも、必要なものだけを選び利用することも可能なのである。
b→dashを活用している企業の実績は、業種・業態、企業の大小を問わず既に500社以上となっている。これだけ多くの企業に支持されているのは何故か、そして課題となっているデータの取込、加工、統合、抽出をノーコードで行える理由について、宮川氏は大手アパレル企業の事例を基に解説。この企業では、ツール導入後1ヵ月で施策と分析を実施し、主要KPIの改善を図っているのだという。
事例として紹介された企業は全国に約30店舗を展開しているほか、ECサイトも運営している。顧客会員数は店舗で約150万人、ECサイトでは90万人と大規模だ。店舗では2018年から2020年の年初まで、右肩上がりで売上が伸び続けていたという。しかし、新型コロナウイルスの影響で、2020年4月~6月の売上は前四半期の50%に落ち込むこととなる。
一方、ECサイトの売上は2020年のはじめまで緩やかな成長を維持していたが、同年4月~6月には巣ごもり需要もあり、一気に60%の売上向上となる。これらの状況から同社では、さらなるECサイトの強化を決定するに至った。具体的には、既存の店舗会員をECサイトに送客することでECの会員を増やし、売上の増加を目指していくのだという。
そのための施策として検討した、店舗会員のEC送客シナリオとはどのようなものか。まず、店舗で商品購入したユーザーセグメントに対し、購入から14日後に、購入した商品に関連するおすすめ商品をメールでレコメンドする。そして、メールを開封したユーザーと未開封のユーザーを分け、開封したもののECで商品を購入しなかった人には、EC限定のクーポンを送信。クーポンを添付したメールが未開封の場合は、LINEでもEC限定のクーポンを送信し、ECサイトに送客するという流れだ。なお、最初のメールを開かなかった人には、購入履歴に基づく商品レコメンドの情報をLINEで送信するのだという。
このように、メールの開封、未開封、あるいはEC上での購入、未購入などの顧客行動を分析し、メールやLINEなどのクロスチャネルでシナリオを作成。ECでの商品購入に結びつけるという施策が講じられたのである。さらに、同社ではこれらの施策の成果を可視化するための、分析レポートの作成も検討した。これには、どれだけECサイトに送客できたかを明らかにし、シナリオの効果を計測する狙いがあった。
“使いこなせないツール”に年間1,620万円 データ統合に膨大な時間
施策と分析の実現に向け、このアパレル企業では2019年4月にMA、BI、およびCDPツールをそれぞれ導入した。しかしながらそこには「ツール利用、運用の壁がありました」と宮川氏は語る。ツールの導入はしたものの、1年経ってもこれらを使いこなせていなかったのだ。その理由は、“必要なデータ”の準備に時間がかかったからだという。
EC送客の施策を実施するには、顧客IDや氏名、メールアドレスや商品IDなど“9つのデータ”が必要であった。これらのデータは基幹システムから集めてくることになり、さらにシステムになければ別途データを加工する必要がある。データ収集を始めてみると、7つはシステム上で集めることができたが、「最終購入日からの経過日数」と「EC未購入者のフラグ」のデータは新たに作成しなければならなかった。
また、たとえ基幹システム上にあったとしても、顧客データ、商品データ、受注データと、システムの中にばらばらの状態でデータが存在しており、それぞれからデータを取り出し統合する必要があった。データの加工・統合にはかなりの手間がかかり、今回のケースではそのために9つのタスクをこなさなければならなかった。
たとえば、最終購入日からの経過日数のデータを作るタスクでは、「現時刻 - 受注日時」の時刻演算で算出する。また、データを統合するには、顧客IDを軸に顧客データと受注データを統合するといった処理が必要だ。これらをはじめとする9つのタスクを繰り返すことで、ようやく必要なデータがそろうのである。
そしてこれらの作業には、CDPツールでSQLを記述する必要があった。具体的には加工用と統合用のSQLが必要で、残念ながらマーケティングの部署にはそれらのSQLを書ける人材はいなかった。結果、情報システム部門に依頼することとなるが、彼らも他の作業で忙しく、データ準備には3ヵ月もの時間がかかってしまう。つまりデータ準備に時間がかかることが、ツール導入、運用の障壁となってしまったのだ。
もう1つの障壁がコストだった。導入したMA、BI、CDPのツールには、それぞれ順に月額約45万円、30万円、60万円の費用が発生していたという。金額に納得した上で導入こそしたものの、使いこなせていないのに年間で1,620万円ものコストが発生し続けるのは問題だった。この状況を受け、同社では既存ツールをリプレイスし、b→dashの導入を決定したのである。
なぜツール導入からわずか1ヵ月で施策を実現できたのか
同社はまず、b→dashでツール導入、運用工数の大幅な削減を実現した。実際、b→dashの導入から施策の実施までに要した時間は、ほんの1ヵ月だった。本ツールには独自のオンボーディングプログラムが備わっており、施策や分析にかかる企画時間を短縮。これにより、早期成果の創出を実現するのだという。また、500社以上の導入実績とリサーチを踏まえ、27の業界、業態におけるベストプラクティス施策と分析をb→dash導入時に初期構築するのである。
なお、今回の事例では「ECと店舗のオムニチャネル」のセグメントとなり、37の施策シナリオ、23のWeb接客、40の分析を初期構築することとなる。「特に顧客が作業することなく、1ヵ月後にはこれらの施策、分析がすべて実施できる状態になります」と宮川氏は説明する。
一般に、MAツールの導入が決まっても、具体的に何をやるべきか分からないというケースは多い。しかし、b→dashではベストプラクティスの施策と分析をあらかじめ使えるようにするので、「どの施策や分析を選ぶか」を支援することが可能となっている。そのため、データマーケティングにおける企画の時間が大幅に短縮されるのである。
そしてb→dashのもう1つの特長が、必要データの洗い出し時間を短縮できることだ。実施する施策や分析が決まれば、必要なデータも明確化される。たとえば、「どのくらい顧客のリピート購入につながるか」の指標となる「F2転換促進シナリオ」を実施するとしよう。このとき、必要なデータを保有しているかはヒアリングで確認する。これについてもヒアリングシートが用意されているため、質問に答えるだけでヒアリングは完了。必要なデータの洗い出し時間は短縮され、施策などの実施の可否も迅速に把握できるというわけだ。
情シスに依頼して3ヵ月の作業が、“ノーコード”で数日のうちに完了
さらに、b→dashはデータ準備時間の短縮も実現する。「Data Palette」という機能によって、“ノーコード”でのデータの加工・統合が可能となる上、画面操作だけで簡単にそれらを実現できるのだという。ここでも施策に応じた加工・統合のためのテンプレートが用意されており、たとえば「店舗会員のEC送客シナリオ」用のテンプレートを選べば、b→dashに連携されているデータの一覧が表示される。あとは必要なデータを選択し、前述の施策に必要な9つのデータ項目が、どのデータに該当するかを設定するだけで準備が完了するのである。宮川氏によれば、“わずか10クリックほどの画面操作”のみでデータの準備は完了するとのこと。これにより、情報システム部門に依頼して3ヵ月かかっていたものが、一切コードを書くこともなく、マーケター自身で数日のうちに終えることができる。
ただ、b→dashは簡単に使えるとはいえ、実施したい施策や分析が多ければ一定量の作業は発生する。これに対してもb→dashのオンボーディングプログラムでは、カスタマーサクセス担当が追加費用なしでデータ準備作業をすべて代行。1ヵ月後には、施策が実行できる状態になって納品されるのである。
さらにツールコストの問題も、b→dashはMA、BI、CDPなどこれまで別々に必要だったツールの機能をAll in Oneで網羅しており、それぞれのツールにおいて個別に利用契約をする必要はない。結果、ツール費用も従来の半額程度まで抑えることができ、大幅なコストダウンが実現できる。
1年経っても使いこなせなかったツールに代わって、b→dashは1ヵ月後には施策を実現し、コストも削減している。「これにより、この会社のECの売上は60%増からさらに伸び、200%増になりました」と宮川氏は述べる。
b→dashには、今回の事例以外にも幅広い業種、業態の事例が豊富にある。MAなどの既存ツールの運用コスト、ツールコストに疑問を抱えている企業、さらにはこれから各種ツールの導入を検討している企業などに向け、宮川氏は「今回紹介した事例を是非参考にして、これまでなかなか実践できなかったマーケティングDXにも挑戦してほしい」と、本セッションを締めくくった。