DX推進は、社内の合意が必要。小さな成功を積み重ねて仲間を増やす
株式会社primeNumberは、データ収集や活用のためのプラットフォーム構築を支援するなど、顧客企業のビジネスに貢献している。同カスタマーサクセス本部 Head of Business Developmentの下坂悟氏は、大手通信事業会社にてパートナーセールスや海外現地法人での新規事業開発、法人営業、アライアンス開拓などを経験し、2021年にprimeNumberに入社。データ活用を日本国内でもっと普及させ、企業の自走と成長を促したいという想いを持つ。そんな下坂氏は、自身が手がけた明光ネットワークジャパンのDXプラットフォームについての説明を始めた。
「明光ネットワークジャパンでは、多くの企業の皆様と同様にシステムが事業ごとに分断されていた結果、全社横断的なデータ活用が難しいという課題に直面していました。データドリブンな変革を進めていく中で、弊社のデータ統合自動化サービス『trocco』を活用いただき、DXプラットフォームの構想を進めています」(下坂氏)
下坂氏とともに登壇した、株式会社明光ネットワークジャパン 執行役員 DX戦略本部長 兼 DX推進室長、マーケティング部長 谷口康忠氏は、新卒でNTT(日本電信電話)に入社。2010年よりNTTコミュニケーションズにて中国向けECやSaaSサービス開発に従事した後、同社のデジタルマーケティング業務を担当。MA(マーケティングオートメーション)/CRM(カスタマーリレーションシップマネージメント)を活用したデジタルマーケティング施策の立ち上げから、サブスクリプション型ECサイトの企画・構築・運用等のマネージャーを歴任し、マーケティング、セールス、オペレーションにわたるDX業務に従事してきたという。明光ネットワークジャパンには、DX推進室長として2021年3月に入社。自ら小中学生の子供を持つ親の立場としても、教育に関心をもっていると話す。
「最近は、コロナの影響もあり、文科省主導のGIGAスクール構想も急速に進んでいます。生徒一人に対してタブレットが配布されたり、学習塾でもオンライン授業の環境が整備されたりと、教育業界全体のデジタル化が進みました。学習塾でのDXというと、オンライン授業などをイメージされる方も多いと思います。明光義塾に限らず、全体の半数以上の学習塾がすでにオンライン授業を活用または併用している一方、8割近くの生徒・保護者が対面授業を希望するとの調査結果が出ています。授業をオンライン化することは、コロナ禍において必要ですし、一定の顕在ニーズに応えるためにも今後も続けていきますが、オンライン授業が学習塾にとって必ずしも効果的なDXかと言われると断定できないのも事実です」(谷口氏)
谷口氏がDX戦略本部長に就任した直後は、同社内でDXを担当するメンバーは一人だけだった。そこで「DXは組織全体の取り組み」だと捉えて、各部門長や社員にヒアリングをするところから始めていったという。当初は、データ活用やデジタル変革についての社内の理解が進まなかった。“組織としてのDX”の定義が曖昧で、単なるITツールの導入利用やSNSでの情報発信と捉えられることも多かったからだ。
谷口氏は、「DXの定義づくりやガイドラインを含めた会社の方針を定め、社員全員に自分ごととして腹落ちしてもらわないとDXを実現することは難しいです。『経営と現場の共感なくしてDXは進められない』ということを肌身に感じました」と振り返る。
当初、社内のDX推進に孤軍奮闘する谷口氏が現場をヒアリングしていく中で、「入塾前と入塾後でDXとして取り組むべき課題が異なる」ことに気づいたと語る。
学習塾は教室運営や学習指導といった入塾後に強みがあるが、入塾前の取り組みに特に課題があると感じ、まずはマーケティング施策の効率化に取り組みはじめた。そこで、オンライン上の顧客行動を可視化分析するためのMA/CRMシステムを導入する。
以降、デジタル上のWebトラッキングから入会にいたる問い合わせまでのプロセスを可視化できるアトリビューション分析の仕組みづくり、SNSや各種Web広告の運用管理、公式サイトのAnalyticsの整備にまい進したという。
入塾前の生徒・保護者が何に反応し、どのような顕在ニーズがあるのかを分析するマーケティングデータの整備を通じて、組織を巻き込んでいくことで、現在、DX推進室はマーケティング部、情報システム部と連携したDX戦略本部として拡大している。
APIがなくてもデータ連携ができる「trocco」との出会い
しかし、MA/CRMの導入は、マーケティング施策として効果的である一方で、本来のDXの目的である入塾前から入塾後までの事業部を横断したデータ活用については、壁にぶつかることとなる。
谷口氏は「たとえば学童保育の『明光キッズ』を終えた児童が、次に明光義塾に通ってくれるよう、生徒の『ライフサイクルステージ』に合わせてデータを自動でつなぐようにしたいと思っていましたが、システムが分断されているためにデータ連携できなかったのです。現状のシステムにAPIが整備されているわけでもなく、悩んでいたところ下坂さんから『trocco』を紹介してもらいました」と語る。
troccoは、クラウドアプリケーションからデータベース、ログデータ、ストレージなどに存在する幅広いデータを抽出して統合・加工することができる。これにより既存のデータを集約し、事業に活用できる環境をスピーディーに構築することができるという。troccoは、Extract(抽出)、Transform(変換・加工)、Load(書き出し)の頭文字をとった「ETLツール」とも呼ばれるものだ。
明光ネットワークジャパンがtroccoを導入した決め手は、インターフェースが豊富で様々なデータソースに対応していることや10万円からスタートできるリーズナブルさ、月額制のマネージドサービスであること、そして何よりも専門のエンジニアスキルがなくても運用できるところだった。
「ETLツールについて海外のサイトなどでも色々調べたのですが、基本的にとても高価です。もちろん安価なものもありますが、追加で学習コストがかかってしまうものも多くありました」(谷口氏)
事業成長に向けたデータプラットフォーム構想の展開
下坂氏は、データを持っていながらETLツールを利用していない企業は、非常にもったいないと語る。点在しているデータを集め、加工・分析することでビジネスに貢献できるETLツールの存在は重要だという。
また、troccoのユースケースについて下坂氏は「事業会社が複数あってシステムが異なる小売業の場合、本社としては事業状況を把握して戦略を検討しなければなりません。このとき、グルーブに点在しているデータを集めて分析するといったケースが多く見受けられます。明光ネットワークジャパンの状況も似ていたのですが、これは小売業だけでなく、多くの企業に当てはまると思っています」と説明する。
さらに、troccoについて「必要な人が必要なときに正しいデータを活用できる状態」を実現できるツールだと下坂氏は繰り返した。情報システム部門やマーケティング部門はもちろん、経営層や各エリアマネージャー、営業、さらには塾の顧客までもがデータの恩恵を受けられるのである。
実際に明光ネットワークジャパンでは、グループ内に点在するデータについて、troccoを介してデータウェアハウスに蓄積し、必要なときにBIツールや業務アプリシステムで活用できるような基盤を構築している。現在は、明光義塾の事業管理システムデータを活用することで、生徒や保護者と教員のコミュニケーション促進を図り、より提供価値を高めるためのアプリケーションの開発にも着手している最中だという。
谷口氏は「簡単にデータを集約できるだけでなく、生徒や保護者のスマートフォンでも必要な情報を確認できると業務自体が変わります。そのため、今後はオペレーションでも活用できたらと考えており、入塾後の生徒の成績アップに活用したり、保護者にもデータを還元したりして満足度を高めていきたいと考えています。これまでサイロ化されていたデータについて、troccoをベースにさらに活用していけることが非常に楽しみです」と語る。
下坂氏は最後に、troccoを無料で試すことができるだけでなく、顧客の悩みに応じた個別相談会も提供しているとして「DXやデータドリブンに悩んでいる企業は、ぜひ気軽に相談してほしい」と講演を締めくくった。