2人でグローバル規模のクラウド基盤を統制
宮原一成氏(以下、宮原氏):富士フイルムビジネスイノベーションでCCoEがなぜ設置され、どのように変化してきたのか。はじめに、発足の目的や経緯についてお聞かせください。
田中圭氏(以下、田中氏):CCoEの発足自体は2014年です。当社のソリューションやサービスにおいてクラウドに関するコストがかさむようになりました。加えて「コストを削減するためにはどうしたらよいのか」「どのように利用すれば安全なのか」といった様々な課題が挙げられるようになるなど、クラウドに係る課題解決に取り組むために設置されました。
現在は、私と木下の2名でパートナー企業と連携しながらCCoEとして活動にあたっています。富士フイルムホールディングスのIT部門に紐づく形で当社のIT部門があり、そこで「社内クラウド」と「ビジネスクラウド」の2つを社内標準クラウドとして据え、後者について統括しています。
他社と少し異なる部分は、クラウドの統括を担う部門がIT部門ではなく事業部門内にあることです。お客様によりよいサービスやソリューションを提供するため「自分たちが利用するビジネスクラウドは、自分たちに合った運営の仕組みを企画・統括することが重要」という考え方に基づいています。そもそも技術者として自分たちが便利に使えなければ、サービスの質も落ちるばかりです。また、クラウドベンダーの技術を積極的に取り入れており、使いこなすための社内教育などにも力を入れています。
どうしてもクラウドの特性として、その費用の多くをランニングコストが占めるため、新たなサービスの開発費を確保するためにも削減が必要です。それも個別最適では限界があるので、サービスや商品横断で取り組み、インフラやアプリケーション自体をクラウドに特化することで、大きなコスト削減効果を得ています。クラウドのメリットを活かすために、ローンチ後のこまめな改善やバージョンアップができるよう“アジリティ”を高めることを目標としています。
宮原氏:なるほど、具体的にはどのような役割を担われているのでしょうか。
田中氏:大きく、下記6つを役割として掲げています。
- クラウド利用促進
- 統制
- 各種調整
- プロジェクト支援
- 企画・改善
- クラウド人材支援
2014年からAmazon Web Services(AWS)、2016年にGoogle Cloud Platform(GCP)を使い始めており、2021年の社名変更および商圏の広がりを受けて、現在はマルチクラウドかつグローバル規模の「ビジネスクラウド基盤」と位置づけて、開発者支援や脆弱性対応のための共通プロセス、その仕組みなどを導入しています。
木下勇人氏(以下、木下氏):2016年のAWS導入時にシンガポールと接続しており、その後北米やユーロ圏、中近東などの海外リージョンとも接続することで“ビジネスクラウド基盤”としてのグローバル化を図りました。それに従って、私たちもCCoEとしてグローバル規模でのクラウド統制を行っています。このように言うと驚かれる方もいらっしゃるのですが、そうしたことができることもパブリッククラウドのメリットといえるでしょう。
田中氏:より詳細に説明すると「クラウドデザインパターン(CDP)」を策定、適応させることで統制していることになりますね。パブリッククラウドでは利用者側の統制責任として任される部分が大きいのですが、そこを野放しにすると様々な不具合が生じてきます。そこで、100以上のマルチテナントアーキテクチャを基にして、幅広い適用システムと構築パターンの併用化をCDPとしてまとめたわけです。
そこには、社内規約やルールに則ったクラウド管理ポリシーによる統制、アクセス制御、データセキュリティ、アイデンティティやアクセス管理、そしてCSPM(Cloud Security Posture Management)による発見的統制などが定められています。