海外から先行していた顧客データ管理環境の地殻変動
本インタビューは、2020年12月に米国で出版した『Customer Data Platforms: Use People Data to Transform the Future of Marketing Engagement』の日本版『カスタマーデータプラットフォーム デジタルビジネスを加速する顧客データ管理』が2022年2月に発売されたことを機に、著者の1人のマーティン・カイン氏に日本企業の読者向けにCDPを解説してもらうために行われた。
――セールスフォースは2020年12月に最初のCDP製品をリリースしています。この製品を開発した背景を教えて下さい。
3・4年前のことでしょうか。私たちのグローバルのお客様の中でも、デジタルだけでなくリアルの店舗でもビジネスを展開しているような会社がデジタルでのビジネスチャンスを失い始めていました。その原因は顧客データの分断です。
――GDPRのようなプライバシー規制の動向も関係があったのでしょうか。
その影響もあります。セールスフォースのお客様は、世界中に顧客を抱えるグローバル企業が中心です。GDPRは欧州の規制とは言え、この動向は全てのお客様に影響すると重く見ました。実際、施行開始の数年前から市場の動きに変化が織り込まれていて、セールスフォースの場合はDMP(Data Management Platform)のビジネスが最も影響を受けました。
また、GDPRだけでなく、その後の動向に対応できるようにする必要もありました。2020年12月の最初のバージョンから、Salesforce CDPがメタデータレベルで規制対応ができるようにしたのはそのためで、柔軟性を持たせた設計のおかげで、その後の米カリフォルニア州のCCPAにも迅速に対応できたと考えています。
――セールスフォースとしてCDP製品開発に着手した当時は、DMPやタグマネジメント製品を提供するベンダーがCDP製品の提供を始めていました。なぜ彼らではお客様の課題解決が難しいのでしょうか。
製品ベンダーだけでは対応できない2つの変化が起きたことが要因だと思います。1つは先ほどの話に出てきたプライバシー保護規制の強化が世界的に進んだこと、そしてもう1つがAppleやGoogleがサードパーティーCookie排除の方針を示したことです(図1)。これから先を見通すことができない中、企業が自分たちの顧客を理解するためにはファーストパーティーデータを活用することが自然だと思います。
――広告配信のパーソナライゼーションで使ってきたサードパーティーCookieが使えなくなる。ベンダーではなく、企業がサードパーティーCookie依存に危機感を持ったことが関係しているわけですね。
そうです。実際、AmazonやAlibabaに代表されるメガリテーラーの強みは、膨大な自社データを活用し、そこから得たインサイトを活用できる仕組みを整えていることにあります。そこまでの規模ではないにしろ、同じことを実現する手段が必要と考える企業が出てきて、CDPへのニーズが高まったのです。