
これまで4回にわたって、DX時代にCIOが抱えるさまざまな課題について述べてきた。連載を通して、CIOに求められる役割が広範なことをあらためて認識いただけたと思う。最終回となる今回は、その中でも優先すべき役割について述べよう。
10年後の成長は、CIOの双肩にかかっている
これからのCIOの役割で最も重要なのは、企業の“情報武装”を適切に導くことでエクスポネンシャルな成長を助け、10年後に業界トップでいられるためのエコシステムを作り上げることである。
いまや企業経営においてCIOに必要とされていることは、事業部門が求めるシステムを予算内で実現することにとどまらない。そんなことはできて当たり前だ。
本来すべきことは、放っておいても儲かって仕方がない仕組みや、新しい価値を次々と生み出すことを可能にするインフラを作ることをはじめ、新しいテクノロジーを取り入れるときに、既存のシステムが邪魔をしないような構造に整えておくことだ。
「社長や他の役員から求められているシステムを現場部門に提供するのでも、四苦八苦しているのに、何を言い出すのだ」「そんな実現するかしないかわからないことを絵に描いても、予算は下りないし、他の役員から鼻で笑われる」
もしかしたら、そのように思うかもしれない。しかし、事業部門の求めるままにERPをカスタマイズして導入してきたツケが、今の会社の競争力を削いでいるのだ。実際に、CIOであるあなたを困らせている課題は、「第1回 何故、DXは進まない? 情報システム部門が抱える課題」で述べたとおりだ。
また、「第2回:なぜ話が折り合わない?ビジネス部門が抱える課題」で述べたように、市場の変化に迅速に適応できるシステムに変えていかないといけないし、市場は常に変化することをCIOから現場に教育していかないと実現は困難だ。
とはいえ、それだけならまだマシだ。テクノロジーがあらゆる分野でエクスポネンシャルに進化することによって、市場が激変して企業の競争力の源泉も変化している。本当に恐ろしいのは、これをいち早く察知してイマジネーションをフル回転させ、他社を出し抜くワナを張っている企業である。
たとえば、「アップルウォッチ(Apple Watch)」のようなスマートウォッチの領域では、汗の成分から血中成分を測定することを目指すなど、技術革新が進んでいる。実際、既に血糖値や尿酸値の測定はできるようになっている。技術が進化して測定できる成分が増えていくと、そのうち健康診断での血液検査はいらなくなるかもしれない。もちろん、それだけの変化であれば、健診業界の市場が激変する程度だ。
しかし、想像してみてほしい。24時間365日休みなく血中成分が測定され、そのデータがクラウドに送られるということは、どういうことだろうか?
食事や運動の前後の変化がどうなっているのか? 処方されたクスリやサプリメントを飲んだら、血中成分はどう変わるのか? お酒は? タバコは?……
そういったデータを本人が時系列でみれば、自身の健康に気を付けるようになるだけかもしれないが、医療従事者や製薬会社にとっては市場が変わる可能性がある。個々人のデータが貯まることでAI診療の精度が上がる。すると、医者は初診よりも、治療に専念できるようになる。また、患者一人ひとりに対してクスリへの反応を細かく見ることができるようになると、患者によって処方すべきクスリの種類や量を変えるニーズが生まれるし、製薬会社にとっては「マス・カスタマイゼーション(Mass Customization)」が求められる。さらには、患者の他データとの相関関係を知ることで、より有効な配合を知ることができるかもしれない。
こうしたデータにアクセスできる病院や製薬会社は大きな市場を獲得し、それ以外の病院や製薬会社はニッチな市場に特化するしかなくなるだろう。では、こうした未来が確実に来るとわかっているなら、健康産業に属する企業のCIOとしては、何をすべきだろうか?
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- この記事の著者
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兼安 暁(カネヤス サトル)
1991年から1998年までアンダーセン・コンサルティング(現アクセンチュア株式会社)で、基幹システム、BI・DWH システムの設計・導入を実施。カルチュア・コンビニエンス・クラブのグループ会社に入社後は、IT戦略立案・実行、Tポイントの立ち上げを行う。その後、エンプレックス株式会社(現SCSK...
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