
2018年秋に経済産業省が『DXレポート』を発表して以来、DXは多くの企業で喫緊の課題となっている。しかしながら、それから3年が経過したものの、多くの企業でDXはまだ進んでいないといわれている。もちろん、企業ごとに事情はあるだろうが、共通している課題も多い。本連載の第1回では、情報システム部門の立場から、DXが進まない理由を整理していく。
時代の要望に適合していないレガシーシステム
DXは、デジタルを活用して新しいビジネスモデルを具現化していくことだ。新しいビジネスモデルの中には、商品やサービスなど、企業が持つ価値の提供形態を変えたり、お金の流れを変えたりするものもある。そういった場合、これまで利用してきたレガシーシステムをそのまま利用できればよいのだが、主に「ベンダーによる保守契約が延長されない」「市場のニーズに合わせることができない」といった理由でレガシーシステムを捨てざるを得ない状況に置かれている。
前者については説明するまでもないだろう。後者について説明すると、今の市場では、競争優位性を築いたり保ったりするために顧客体験が重視されている。そのため、スマートフォンのアプリ、LINEなどのチャット、パソコンなど、様々なコミュニケーション手段から“同じサービス”を提供することが求められているのだ。さらには、複数の企業との提携によるエコシステムを形成することで、顧客の細かなニーズに応えていく必要もある。
そして、両者がシステムに対して、アクセス負荷への柔軟なスケーリングや柔軟な仕様追加・変更を要求する。アクセス負荷に対応するにはクラウド上で動作させるだけでなく、スケールアウトができるアプリケーション構造でなくてはならない。つまり、仕様追加と変更のたびにシステムの大部分を再テストしなくてはいけない“モノリスティック”な構造をしているレガシーシステムでは、他企業やサービスとの連携にすぐに応えることができない。
これらの理由から、レガシーシステムを今後も使い続けることは、いずれ市場に選ばれなくなることを意味する。それ故に、レガシーからの脱却が叫ばれているのだ。
レガシーシステムからリソースをはがせない
レガシーシステムから脱却して、新しいシステムに変えていきたいといっても簡単には進まない。最初の壁は、費用と人の両面でレガシーシステムからリソースをはがせないというジレンマだ。
特に、古いシステムはシステムソフトのバージョンアップや、セキュリティパッチを当てる必要性が頻繁に生じたり、業務部門からの改修要望、データの抽出要望、帳票の作成など、多くのバックログを抱えていたりする。ただでさえ、人手も予算も足りずに期限を延ばすことで対処している状況にもかかわらず、そこからリソースをはがして新しいシステムのために割り当てると、レガシーシステムのバックログは、さらに後ろに伸びることになる。
また、古いシステムほど、データセンターやハードウェア、保守料のコストなどのランニングコストが高いため、情報システム予算の90%近くを費やさざるを得ない企業が40%以上にも上るという調査結果もある。

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兼安 暁(カネヤス サトル)
1991年から1998年までアンダーセン・コンサルティング(現アクセンチュア株式会社)で、基幹システム、BI・DWH システムの設計・導入を実施。カルチュア・コンビニエンス・クラブのグループ会社に入社後は、IT戦略立案・実行、Tポイントの立ち上げを行う。その後、エンプレックス株式会社(現SCSK...
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