先進企業が示す水平連携の方向性
ここまでで紹介してきたSAPの取り組みへの期待は、グローバルでは総じて高い。ただし、日本企業に限ると、実践に向けた意欲を示すところはまだ少ないという。これにはクラウドERPの導入状況が関係している。欧州企業の場合、10年以上前から日本企業と比べて広い範囲の業務にERPを導入してきた。そのため、企業内の計画系のデータ連携が安定的にできる環境が整備されており、「次は企業外」と、次の変革に向けた目標が視野に入る。これに対して、日本ではERPを導入しているものの、会計だけで生産管理は導入していないところが多い。
原氏によれば、SAPへの日本の製造業からの相談で多いのは、「設計と製造」や「購買と製造」のように、業務間を横断するような仕組みの構築についてだという。同じデータ連携でも、企業間の連携が水平連携だとすると、こちらは製造現場から経営(事業部)への垂直連携と言える。具体的には、製造現場にMES(Manufacturing Execution System)を導入し、ERPにつなぐ。すると、ERP側で作った計画をMES側で実行し、実行結果をERPにフィードバックする仕組みができる。これは前述の「今ある部材で何の製品がどれだけ作れるか」を素早く検証することにも役立つ。S/4 HANAへの移行が終われば、また状況が変わる可能性もあるが、「日本ではまだERP+MESへの投資が中心です」と原氏は現状を語った。
サプライチェーンの混乱への対処も頭にはある。しかし、今の顧客の要望に応えるためにも、製造の仕組みへの投資の優先度が高いという認識なのだろう。また、計画業務の改善は対処療法で終わらせられないとわかっていて、着手の時期を見極めたいと考えている可能性もある。だが、人海戦術で乗り切るには、限界があるのではないだろうか。垂直連携と水平連携の両方を実現すれば、難局を乗り越えるだけでなく、次の成長に向けた経営を実現できるはずだ。財務計画のモニタリングに関しては、問題を抱える企業は多いが、難しい経済環境だからこそ、仕組みの高度化が求められている。