カゴメのDXは「Mode2」に突入──基幹システム刷新を乗り越え事業創出へ、キーパーソン秦誠氏に訊く
経営と現場を巻き込みながら風土醸成、変革において重要視したものとは

野菜飲料やトマトケチャップなどを手掛け、日本を代表する食品メーカーの1つである「カゴメ」。「トマトの会社から、野菜の会社に」をビジョンとして掲げ、野菜に関する情報や商品の提供によってさまざまな社会課題解決に貢献する企業への進化を進めている。その重要な鍵を握るDX推進を牽引するのが、同社の情報システム部長と、カゴメアクシス株式会社の業務改革推進部長も兼務する秦誠氏だ。社内のレガシーシステムの刷新に始まり、新生カゴメに向けて大きく前進しつつある同社のDXについて伺った。
社会課題解決を達成するためのDX
カゴメのDXは2016年に、「トマトの会社から、野菜の会社に」を長期ビジョンとして打ち出したことが起点だという。国内シェア1位を誇るトマトケチャップに代表されるように、これまでは“トマト加工品”の会社という印象が強かったが、飲料や食品において、さまざまな野菜を原料とする製品を拡充している。さらに、“2025年にありたい姿”として「食を通じて社会課題の解決に取り組み、持続的に成長できる強い企業」となることを宣言した[1]。そのためにDXも含め、カゴメのあらゆる資源を総動員して現在取り組んでいるのが、日本人に不足している60g分の野菜を美味しく摂取しようという「野菜をとろうキャンペーン」だ。
こうしたカゴメのビジョンや取り組みは、創業以来120年にわたるテーマである「食と健康」の延長線上にあることは間違いない。農業から生産・加工・販売と一貫したバリューチェーンを持ち、トマトはもちろんさまざまな野菜に関する情報や知見を蓄積してきた。それらを活用して革新的な商品や情報として幅広く提供し、「食による健康寿命の延伸」「農業振興・地方創生」などの社会課題解決へ貢献しようというわけだ。
秦氏は、「DX推進の目的の一つは、そうした長期的なビジョンを起点とした社会課題解決のため、そしてもう一つはデジタル化による社会変化に対応し、持続的に成長できる組織となるため。いわば内と外の変化、両面で考えることが求められています」と語る。

カゴメアクシス 業務改革推進部長 秦誠氏
そして、「まだ直接的には大きくないが」と前置きしながらも、DXが食品業界に与える“外から”の影響について、「小売産業や外食産業で徐々にさまざまな変化が現れ、そのうちカゴメにも及ぶ可能性が高いでしょう。特に、今後プラットフォーマーが登場してビジネスモデルがレイヤー型になったとき、これまで強みだった垂直統合バリューチェーンが弱みになる可能性があります」と語る。来る変化に備える意味でも変革が必要であり、その仕組みづくりの手段としてDXを位置付けているというわけだ。
2016年を起点として、まずはDXのための準備を「Mode1」と位置付けて業務改革プロジェクトを行い、それに沿う形で基幹システムを刷新。その際、組織のしがらみから業務改革を阻害されないよう、DX推進チームをはじめバックヤード部門を組織外に設けるために、カゴメアクシスが設立されたという。一歩離れたところから客観的にアプローチすることでスムーズな推進を図ることが目的であり、秦氏は2016年の「Mode1」から、情報システム部とカゴメアクシス 業務改革推進部のマネジメントを担いながらDXの推進役として関わってきた。
[1] 参考:『統合報告書(2022年度)』(カゴメ IRより、PDF)
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伊藤真美(イトウ マミ)
フリーランスのエディター&ライター。もともとは絵本の編集からスタートし、雑誌、企業出版物、PRやプロモーションツールの制作などを経て独立。ビジネスやIT系を中心に、カタログやWebサイト、広報誌まで、メディアを問わずコンテンツディレクションを行っている。
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岡本 拓也(編集部)(オカモト タクヤ)
1993年福岡県生まれ。京都外国語大学イタリア語学科卒業。ニュースサイトの編集、システム開発、ライターなどを経験し、2020年株式会社翔泳社に入社。ITリーダー向け専門メディア『EnterpriseZine』の編集・企画・運営に携わる。2023年4月、EnterpriseZine編集長就任。
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